2019年4月13日(土)国際日本学拠点では本学訪問教授である多和田葉子氏によるワークショップを開催しました。ワークショップには本学や他大学にて「作家 多和田葉子」を研究する院生が参加しました。ワークショップの様子はNHKの海外向け放送番組の中でも取り上げられました。以下は参加者から寄せられた感想です。

1 冨所亮介「詩的なものと私的なもの――多和田葉子と伊藤比呂美における翻訳の問題から」(早稲田大学大学院文学研究科修士2年)

ジャンル横断的な創作や印象的な朗読パフォーマンス、海外移住、そして現在、早稲田大学で教授の任に就いているなど、さまざまな共通点のある多和田葉子と伊藤比呂美。この二人の翻訳の問題から、両者の詩的言語の発生や差異について考察する発表でした。会場からは、「翻訳が思想、意味、言葉、音などから何を翻訳する要素として選び、さらにそれをどのような形で訳すのかを、多和田葉子という作家を通して考えることは、現代においてはいっそう意義のあることだろう」という声がありました。

2 長谷川美緒「動物と人間をつなぐもの――多和田葉子『雪の練習生』をめぐって」(早稲田大学大学院文学研究科修士課程卒業生・新潟大学職員)

多和田作品にはしばしば動物が登場します。本発表では、語り手がホッキョクグマである『雪の練習生』において、人間と人間の言語を扱う動物とのつなぎ目になっている部分に注目し、人間のなかのホッキョクグマというモチーフを捉えようとするもので、多和田さんも意識していなかった細部への言及もありました。また、質疑応答の際には、地球温暖化や東日本大震災に連動するかのようにシロクマやクマのキャラクターが創作物に頻繁に現れるようになったという、とても興味深い話が多和田さんからありました。

3 谷本知沙「多和田葉子の文字置換実験――「月の逃走」のメタモルフォーゼについて」(慶應義塾大学大学院博士後期課程在学中)

本発表では、「月の逃走」という多和田葉子の同じタイトルを持つ3つの詩の翻訳による変遷を踏まえ、ドイツ語読者にとって理解できない漢字が、ドイツ語テクストのなかで用いられることの意義が考察されました。多和田さんは体験に基づいて、「さまざまな国に行くと、ほとんど知らない言語に囲まれている。だがそうした言葉は、分からないからこそ面白味がある」と仰っていました。その一方で、発表者からは「この詩に用いられた漢字はもはや国籍を持たない」という発言もあり、言葉の面白味と危機を同時に考えさせられる発表でした。

4 ソン ヘジョン「多和田葉子の声を記録するということ」(東京大学大学院人文社会研究科博士後期課程在学中)

多和田葉子の朗読パフォーマンスは、現在優に千回を超えています。約十年間、そのパフォーマンスを記録しつづけてきた発表者が上映した計七種類の映像をみていて、映像を初めとした、多和田さんに関連する資料を保存するアーカイブが制作されてほしいと思い、そして彼女の多岐に渡る活動が形として残されることの重要性も感じました。発表者の「言葉だけではとらえられない空気感のようなものを、写真や映像なら伝えることができるのではないだろうか。そしてそれもまた『文学』と呼べるだろう」という言葉は、狭い視野にとらわれない多和田文学の可能性を示す言葉なのではないかと思います。

*感想は原文のまま

今回、それぞれ異なる発表が行われました。ですが、「言葉/文字」「翻訳」「間」という、多和田葉子を考えるうえで核になる三つのテーマが通底して扱われていたように思います。実際、発表を聞いていると個々の発表内容がリンクするような部分がいくつもありました。ワークショップは、四時間という長丁場ではありましたが、終始和やかに、かつ、発表の対象となる作家本人がいたこともあってか、質疑応答では本質的な話題にまで発展していく、大変充実したものとなりました。(記録者:冨所亮介)

■ワークショップ概要■

日時:2019年4月13日15時〜19時

会場:早稲田大学 戸山キャンパス33号館 351教室

■メディアによる取材■

本アカデミック・ワークショップは約140か国で視聴されているNHK WORLD TV (NHK海外向け放送) の取材を受け、当日の模様は2019年4月28日(日)放送の当番組にて紹介されました。

放送日:2019年4月28日(日)10:10-10:38

ライブストリーミング

https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/