UCLA-早稲田 柳井イニシアティブ国際シンポジウム

「松本清張:メディア・アダプテーション・ミドルブラウ文学」

MATSUMOTO SEICHŌ-MEDIA, ADAPTATION , and MIDDLEBROW LITERATURE

2020年2月14日、15日の二日間、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて、国際シンポジウム「松本清張:メディア・アダプテーション・ミドルブラウ文学」が開催された。マイケル・エメリック氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校・教授)、田中ゆかり氏(日本大学・教授)、十重田裕一氏(早稲田大学・教授)の企画で行われた本シンポジウムは、九つの研究発表、映画上映、朗読から構成された、多彩なイベントとなった。

1日目は、マイケル・エメリック氏が企画の趣旨を述べたのち、十重田裕一氏が「松本清張の光と影:日本の高度成長・マスメディア・文学」という題目で研究発表を行うことで始まった。松本清張の文学が書かれ、読まれた背景(高度成長期)を巨視的に概観する一方で、マスメディアの発達にともなった様々なアダプテーションの状況(映画化、テレビドラマ化)をグラフなどの具体的な統計資料にもとづいて示し、シンポジウム全体のフレームとなるような発表であった。

十重田裕一教授

つづいて、Kaoru Tamura氏(Independent Scholar)は、「Seichō’s Historical Vérité Analyzed in the Context of Mori Ōgai’s Essay ‘History As It Is, History Ignored’」というタイトルで、森鴎外の「歴史其儘と歴史離れ」というエッセイを手掛かりに松本清張作品における鴎外の影響について議論した。Deanna T. Nardy氏(コロンビア大学・大学院生)は、「The Representational Politics of Black Occupation Soldiers in Matsumoto Seichō’s Kuroji no e」の発表において、松本清張の短編「黒地の絵」における黒人表象が有する相反するパラダイム(黒人占領軍)を分析し、松本清張と人種の問題を扱った。金ヨンロン氏(早稲田大学高等研究所・講師)は、「Who is the True war criminal?: Reading Matsumoto Seichō’s The Court Built on Sand: A Novel of the Tokyo Trial」において松本清張の「砂の審廷:小説東京裁判」を取り上げ、清張が推理小説と歴史小説との方法論的類似を巧みに利用し、東京裁判をめぐる議論に新たな問題を突きつけたと評価した。

研究発表と聴衆を取り込んだ活発なディスカッションの時間の後、夕方8時から野村芳太郎監督が映画化した松本清張の『張込み』(1958年)の上映会が行われた。

二日目の午前は、松本清張と映画に関する研究発表が三つ続いた。具珉婀氏(明治学院大学・外国人研究員)は、「日本映画界における「清張もの」の誕生―松竹の場合―」と題した発表で、清張原作の映画が数多く製作される1950年代から1960年代に注目し、当時の映画産業の観点から清張ブームを取り上げた。

志村三代子氏(都留文科大学・准教授)は、「ヒロインが生かされるとき―松本清張『声』の翻案をめぐって―」において、1956年に発表された松本清張の『声』と、その2年後に日活の鈴木清順によって演出された『影なき声』とを比較し、原作と映画の問題を扱った。斉藤綾子氏(明治学院大学・教授)は、「『ゼロの焦点』の立川、パンパンが意味するもの」において、松本清張の原作『ゼロの焦点』と野村芳太郎の映画とを比較しながら、「立川」と「パンパン」の意味を議論し、清張と戦後の問題を検討した。

午後は、田中ゆかり氏(日本大学・教授)の「高度経済成長期の言語観を映す松本清張『砂の器』」と題された発表から始まった。『砂の器』が同時代(高度成長期)の日本語社会における言語観が投影された作品であることを明らかにし、作中人物にどのような言語が与えられるのか、など言語学の観点から新たな問題提起が続いた。Cécile Sakai氏(Université de Paris – Paris Diderot、教授)は、「事件という挑戦―松本清張の複合的リアリズム―」において、フランス語に翻訳された作品の紹介をはじめ、清張におけるリアリズムの構築という問題、犯罪と社会、日常と非日常、現実と文学といった大きな枠組みを提示し、いま松本清張を再考することの意味を再び問うた。

Sakai教授と田中教授

最後に、Louise Heal Kawai氏(翻訳家)が、自ら翻訳した松本清張の『聞かなかった場所』を朗読した。原作の日本語を田中ゆかり氏が朗読し、Louise Heal Kawai氏が英語訳を読み、原作と翻訳の両方から松本清張の作品の世界を感受することができた。

二日間ともに濃密な研究発表、聴衆の積極的な参加によって充実した会になり、松本清張を再考する際に「メディア・アダプテーション・ミドルブラウ文学」が有効なキーワードであることを確認することができた。

 

 

 

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