歌舞伎俳優の中村京蔵氏が、文化庁から文化派遣使としてアメリカ、メキシコ、キューバを巡演するにあたり、本学国際日本学拠点とUCLAとの提携をいかして、双方でかねがね念願としていたロサンゼルスでの歌舞伎レクチャーを開催する機会を得た。その前に巡演するサンフランシスコでも、諸大学等との連携を模索し、各地の総領事館等とも協力関係を構築するに至った。

カリフォルニア大学バークレー校(11月7日)、カリフォルニア州立大学(11月8日)、シアター・オブ・ユーゲンの本拠地NOH Space(11月9日)で、それぞれ歌舞伎レクチャーを行った。まず中村京蔵氏が舞踊「藤娘」の一節を踊り、その後、児玉が「歌舞伎とは何か」のレクチャーを行う。その間に京蔵氏が扮装を着替えて再登場、女方の所作や心情表現についてワークショップ的な解説を行う。再び京蔵氏が扮装を替える間に、児玉が「歌舞伎とは何かⅡ」と題するレクチャーを行い、京蔵氏の扮装が整い次第、舞踊「石橋」の後ジテとなって登場、後ジテの所作を披露するという番組で、所要およそ九十分である。今回は、松竹株式会社の多大な協力によって衣裳と床山が同行することができたため、より効果的なデモンストレーションを行うことが可能となった点も大きい。

京蔵氏によるデモンストレーション

京蔵氏によるデモンストレーション

児玉教授によるレクチャー

児玉教授によるレクチャー

以上3箇所での開催には、サンフランシスコ総領事館の全面的な助力を得て、バークレーでの上演には総領事夫妻のご来観をいただいた。各校の担当によるMC(前説)によって聴衆の空気が大きく変わるのも発見で、バークレーの聴衆は、きわめて真摯で緊張感に満ちた中での鑑賞となった。翌日のカリフォルニア州立大学では、受入担当の後藤教授が、歌舞伎は大衆的なもので上演中に歓声を上げても歓迎されることを熱心に説いて、「Kyo-ya」のボードまで持参されて大向うの指南をされた。その甲斐あって、前日とはうって変わって、一挙手一投足に歓声と感嘆の声のあがる上演となった。いずれにも、それぞれの良さがあることを再確認した。 シアター・オブ・ユーゲンは、サンフランシスコで半世紀近く活動を続け、日米文化交流の功績で外務大臣表彰も受けておられる劇団。ここでは小劇場空間での緊密な上演で、特別に質疑応答の時間をも設けたので、京蔵氏・児玉に向けて活発な質問が寄せられた。

ロサンゼルスに移動後は、国際交流基金(11月13日)、UCLA(11月14日)でレクチャーを行った。ロサンゼルス総領事館、国際交流基金、日系人博物館などとも緊密な連携関係を築き、UCLAでは早稲田大学から留学している学生および、マイケル・エメリック教授、嶋崎聡子准教授の御協力をいただき、早朝授業の一環として、3クラス合同の特別授業として開催することができた。

Glorya Kaufman Hall

Kirk Kanesaka氏

 

かつて早稲田大学の大学院に留学し、現在ではアメリカに帰国して日本舞踊家としても活躍するカーク金坂氏の協力も特筆しておきたい。ロサンゼルスでの翻訳を担当してくれた金坂氏は、早稲田の文学学術院教育・総合科学学術院の大学院で学ぶとともに、史上初めて米国籍の歌舞伎俳優として本興行の舞台に立ったこともある。早稲田に学んだこうした有為の人材が、アメリカでさらに文化の共通理解のための教育・普及活動に従事していることを付記しておく。

 

 

 

中村京蔵氏は、19ヶ国47都市でのレクチャー経験を有し、おそらく歌舞伎史上最も多く海外に出た歌舞伎俳優である。

女方の所作と心情表現のレクチャーはすでに練り上げられたレパートリーともいうべきで、自分を指さす指先で、女性の老・壮・若を演じ分けて見せたり、女方の泣き、笑いなどの表現を通して、男性が女性役を演じることが演劇の普遍的な方法であることを理解させてゆく。

 

今回は、そこに映像・画像をも交えた児玉のレクチャーが挟まることで、歌舞伎の歴史や様式について、より幅広い前提知識を提供することができたかと思われる。

文学学術院教授・早稲田大学演劇博物館副館長 児玉竜一