ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

東アジアにおけるサブカルチャー、文学の変貌と若者の心市、北京、上海、香港、台北、シンガポールでフィールド調査を実施した。調査は二つの部分からなる。一つはアンケート調査である。若者たちが、ライトノベル(「軽小説」)、アニメ・マンガなどのサブカルチャーをどのように受容しているのか。コスプレや二次創作などの同人活動にどのように参加しているのか。同様に、村上春樹の作品をどう受容しているのか。そんなことがらについて質問した。もう一つはインタビュー調査である。ライトノベルの作家、同人創作の書き手、コスプレの参加者、同人イベントのコーディネーターなどに、自己の創作や活動について話を聞いた。サブカルチャーと村上春樹を並べたのは、両者が東アジアの諸都市で若者に流行している背景に、作品の受容をめぐる共通の変化や、共通した若者の心理の形成があると考えたためである。ここでは、そのうちのサブカルチャーについて、調査に到ったわたしの問題意識、調査の過程で見えてきた事実、それらをとおして考えたことなどを、簡単に紹介したい。(紙幅の関係で、村上春樹については稿を改めて述べる)2.今、東アジアの都市に起こっていることまず、東アジアの都市に共通している現象とはどんなものか見てみよう。ここに一枚の写真がある(図1)。街角で若者を撮影したものだ。出典は博報堂アジア生活者研究プロジェクト著『アジアマーケティングをここから始めよう』(PHP研究所、2002年)という書物である。東京、上海、北京、台北、香港、ソウル、シンガポール、クアラルンプール、バンコク、ホー・チミン──これらアジアの十都市で若者の消費生活調査を図1どこの若者?行い、マーケティング戦略を考察した報告書だ。だが、ここで問題にしたいのは書物の内容ではなく、写真に映った若者の姿である。どの写真がどの都市の若者か、お分かりになるだろうか。正直に告白すれば、背景の看板に書かれた文字が仮名かアルファベットか、繁体字か簡体字か、ハングルかシャム文字か目に入らなければ、わたしには皆目見当がつかない。服装や髪型、化粧の仕方を見ても、彼らの容貌はほとんど違わない。これが現在のアジアの都市の若者の姿なのだ。つまり、国や地域ごとに、歴史的な、あるいは社会的、文化的な背景が異なっても、アジアの都市の若者の消費生活には、似通った点が驚くほど増えているということだ。実は、消費生活だけでなく、彼らの文化的な趣味にも驚くほど似通った点がある。特にサブカルチャーに関してはそうだ。一つクイズをやってみよう。次に挙げるものが何か、お分かりになるだろうか。いずれも、数年前まで中国や香港、台湾、シンガポールなど、東アジアの諸都市で若者に熱狂的に支持されていたものだ。①名偵探柯南、②灌籃高手、③新世紀福音戦士、④逮捕令、⑤侍魂、⑥心跳回憶。(いずれもインターネットに多くの関連サイトがある)種明かしをすれば、①名探偵コナン、②スラムダンク、③新世紀エヴァンゲリオン、④逮捕しちゃうぞ、⑤侍スピリッツ、⑥ときめきメモリアルである。最初の二つはマンガ、次の二つはアニメ、最後の二つはコンピュータゲームから出たものだ。それが、マンガ、アニメ、コンピュータゲームだけでなく、フィギュア(模型)、ノベライズ(小説)など、領域を越えて多様なジャンルで作品化され、若者の間で流行している。いわゆるメディアミックスである。上に挙げた例は、いずれも日本で生まれた作品である。1980年代から90年代にかけて、中国をはじめアジアの都市を席巻したのは日本のアニメやマンガ、ゲームだった。(ACGと呼ぶ。Animation、comic、gameの略称)世界的に流行した「機器猫(ドラえもん)」はもちろん、「七龍珠(ドラゴンボール)」や上記のマンガ・アニメを知らないアジアの若者は今やほとんどいない。今も日本のACGは人気が高いが、近年は日本の作品以外にも流行する作品が生まれている。例えば、もとは韓国のインターネットで流行したキャラクター“mashimaro”がそうだ(図2)。後に中国では「流氓兎」と呼ばれて149