ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

東アジアにおけるサブカルチャー、文学の変貌と若者の心図5日本のライトノベル図7郭敬明『幻城』図6台湾の「軽小説」『擒妖記』仕立てのものから、何気ない日常の中で奇妙な事件が起こり、若者が地球や世界の存亡に関わる戦いに巻き込まれるセカイ系と呼ばれるもの、若者の生活を描いた日常系(或いは空気系)と呼ばれるものなど多様で、一括りにすることは難しい。ただ、書物を手に取れば、他のエンターテインメント小説や純文学と差別化されていることは明らかだ。角川スニーカー文庫や電撃文庫など多くのレーベルがあり、先に挙げた谷川流『涼宮ハルヒ』シリーズ(角川スニーカー文庫、2003年~)(図5)や、西尾維新『戯言』シリーズ(講談社ノベルズ、2002~2009年)などベストセラーが数多く出ている。また、雑誌『ユリイカ』で西尾維新が特集され(2004年臨時増刊号)、冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』三部作(早川文庫JA、2003年)が2003年の日本SF大賞を受賞するなど、社会的にも注目を浴びるようになっている。ライトノベルに村上春樹を凌駕する売れ行きの作品が数多くあることはすでに述べたが、東アジアの諸都市でも多くの読者を擁している。こうした小説は、東アジアでは「軽小説」と呼ばれる。台湾では、日本からの翻訳だけでなく、台湾角川小説大賞などのコンテストもあって、現地での創作も盛んである。(図6)大陸では、「軽小説」というと、日本のライトノベルをイメージする傾向が強いようで、国産の作品はふつう「青春小説」「校園小説」と呼ばれる。郭敬明の『幻城』(図7)『爵迹』(長江文芸出版社、2010年)など日本とよく似たSF、ファンタジー仕立ての小説もあるが、若者の青春群像を描いたティーン小説に近い作品も多い。韓寒『三重門』(邦題:上海ビート、作家出版社、2000年)、郭敬明『小時代』シリーズ、笛安『西決』(長江文芸出版社、2009年)『東霓』(同前、2010年)『南音』(上・下、同前、2012年)、落落『剰者為王』(同前、2011年)などがそうだ。香港やシンガポールでは、「軽小説」といえば、もっぱら日本や台湾のライトノベルを指す。これらの都市では市場規模が小さいこともあって、もともと現地で創作されている作品がきわめて少ない。それらの作風も、若者の日常を描いたコメディや、ティーン小説などが主151