ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
WASEDA RILAS JOURNALと冬に東京ビッグサイトで大きなコミックマーケットが開かれるほか、各地で小規模なイベントがたくさん開かれている。会場は、キャラクターにコスプレ扮装したファンや、同人たちが大勢あつまり、海外からの参加者も少なくない。中には一日で100万円を売り上げる強者の同人もいる。中国や台湾、香港、シンガポールでも年に一度か二度大規模なコミケが開かれるほか、小規模なイベントが折に触れて開かれている。その様子や賑わいは日本とほとんど変わらない。(図11、12、上海のコミケ。図13、14、台湾のコミケ。図15、16、シンガポールのコミケ)同人たちはコミケだけでなく、インターネットやオフ会(同人仲間だけの集い)を通じて情報を交換し、お気に入りのキャラクター(アニメの場合は声優なども含む)や作品の世界観、作品のディテールなどについて、熱い議論を戦わせる。こうした作品のファンの間では、作品の受容の仕方が大きく変化している。彼らの作品の読み方が明らかにこれまでの文学作品の読み方と異なるのはすでに述べたとおりだが、それだけではない。ただ作品を読んで楽しむだけでなく、作品を通じて相互にコミットしようとする読者が少なくないのだ。同人活動やファンどうしの交流はその一環である。では、彼らの読み方はどう変化したのだろう。なぜ彼らは作品を通してコミットしようとするのだろう。まず、作品の読み方の変化から考えてみることにしよう。キーワードは「キャラクター」である。4.キャラクターを読む──テクスト受容の変化以下に挙げるのは、東アジアの各都市で、大学生を対象に、「軽小説」(ライトノベル)およびアニメ・マンガについて「どこが好きですか?」と訪ねたアンケート調査(複数回答可)の結果である。ここで言う回答者は、アンケートに答えた学生のうち、「軽小説」(ライトノベル)およびアニメ・マンガを読んだこと(見たこと)がある者に限られている。北京では、「軽小説」(ライトノベル)に関するアンケートについてみると、回答者92名に対して、ベスト3は「読みやすい」41名、「ストーリーがよい」37名、「キャラクターが魅力的」36名であった。アニメ・マンガについては、回答者96名のうち、「ストーリーがよい」と答えた者が69名、「キャラクターが魅力的」と答えた者が60名と群を抜いて多かった。台湾では、「軽小説」(ライトノベル)、アニメ・マンガとも、「ストーリーがよい」「キャラクターが魅力的」と答えた者が他を圧して多く、「軽小説」(ライトノベル)については回答者287名中、前者が242名、後者が240名、アニメ・マンガについては回答者334名中、前者が293名、後者が278名だった。香港でも結果は同様で、「軽小説」(ライトノベル)については、回答者86名のうち「ストーリーがよい」と答えた者が48名、「キャラクターが魅力的」と答えた者が30名だった。アニメ・マンガについては、回答者82名中「ストーリーがよい」と答えた者が55名、「キャラクターが魅力的」と答えた者が38名いた。いずれも、1位2位を占めている。シンガポールは少し傾向が異なり、「軽小説」(ライトノベル)については、回答者45名に対し、ベスト3は「ストーリーがよい」22名、「癒しや慰め、救いを感じる」21名、「読みやすい」19名だった。アニメ・マンガについては、回答者48名中、「ストーリーがよい」と答えた者が37名、「キャラクターが魅力的」と答えた者が34名を占めた。いずれの地域でも、まだストーリーのよいことが作品の魅力の第1位になっているが、キャラクターの魅力もそれに劣らず重視されていることが分かる。1980年代に同じアンケートを行えば、おそらくキャラクターの魅力を挙げる回答はきわめて少なかっただろう。そうしたことを考えれば、これら作品の若い世代の読者の作品の読み方において、いかにキャラクターの重要性が増しているかが分かる。また、各都市でのインタビューからも、読者のキャラクターを重視する姿が浮かび上がってくる。以下は「軽小説」(ライトノベル)の書き手でもある読者の発言の一部である。「中国の若い人たちも、キャラクターイメージの影響を受けています。30歳以上の人はもっとテクストを重視するかもしれません」。(上海。コミックマーケット・コーディネーターFさんへのインタビュー。2010年6月29日、復旦大学新聞学院スタジオにて。)「よいキャラクターは作品全体の魂です」。(北京。同人イベントコーディネーター、SION同人社社長、154