ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
- ページ
- 157/230
このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている157ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている157ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
東アジアにおけるサブカルチャー、文学の変貌と若者の心「軽小説」の書き手、ニックネーム山崎晴矢さんへのインタビュー。2011年2月、北京大学にて。)「読者の多くはキャラクターを好むのでしょうが、わたしはストーリーもキャラクターも大事だと思います」。(台北。ライトノベルの書き手、花月ASKAさんへのインタビュー。2011年2月、台湾大学付近の喫茶店にて。)キャラクターを重視してテクストを鑑賞するこうした読み方は、日本のマンガから広がっていったようだ。批評家の伊藤剛は、1990年代前半にいがらしみきおのマンガ「ぼのぼの」(1986年~)の描き方が変化したあたりから、それが始まるという。作中のキャラクターの位置づけに変化があったというのである。キャラたちは「物語」からゆるやかに切り離され、ただ個別に戯れることを許されている。つまり、キャラたちの「存在」が自在に組み合わされた結果を記述したかのようなテクストが生産されるに至ったのだ。……テクストの内部において、キャラが「物語」から遊離すること、そして、個々のテクストからも離れ、キャラが間テクスト的に環境中に遊離し、偏在することを「キャラの自律化」ととりあえず呼ぶことにしよう。『テヅカイズデッド』(NTT出版、2005年)伊藤は、以前のマンガのキャラクターは物語に依存していたが、それと切り離された新たな形象がこの時期に生まれたという。以前のキャラクターと区別するために、伊藤はそれを「キャラ」と呼ぶ。そして、この時期からストーリーを離れてキャラクターを鑑賞する読み方や、それを前提とした創作が普遍化したと考える。ストーリーと関係がないので、鑑賞するのは主人公でなくてもかまわない。読者は端役や小動物でも「このキャラかわいい」と鑑賞できる。こうしたキャラクター観のもとになったのは、1970年後半代のメディアミックスだろう。もとは角川映画が始めた戦略で、映画だけでなく、原作の文庫本、カセットブック、テレビ特番、マンガ化など複数の媒体で宣伝し、認知度を高める商業活動を指す。マンガ・アニメの分野でも、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』などが同様の方法で展開された。マンガ、アニメ、ノベライズ、フィギュアなどが連動して市場に登場したのである。マンガがアニメ化され、フィギュアやカード、シールなどマルチに販売する戦略自体は、1960年代の『鉄腕アトム』や『鉄人28号』から見られた。だが、これらは似て非なるものだ。1960年代には、マンガの流行が先にあって、次第にアニメやその他の領域の商品が作られていた。ところが、1970年代後半のメディアミックスでは、複数の領域のグッズが一斉に、あるいは連続して市場に展開される。まず、その連動性において異なっている。この時期からのメディアミックスにはもう一つ特徴がある。「あるメディアで発表された作品は、独立した作品であると同時に、作品世界を共有する他メディアの作品の広告となっている」?ことである。簡単に言えば、それぞれのメディアの作品は大筋のストーリーを共有しているが、ディテールに若干の違いがあり、愛好者が複数のメディアの作品に興味を向けるように仕組まれているのだ。極端な例を挙げれば、マンガで死亡したキャラクターが、ノベライズ作品ではまだ生きている、というようなことを想像すればよい。それらストーリーに異同のある作品群いずれにも共通し、一体性をもたらしているのはキャラクターである。ファンはキャラクターに注目することで、複数の領域の作品の異同を楽しむことができる。こうして、しだいにキャラクターに注目する素地が形作られ、1990年代に、それを中心にテクストを読む現象が顕然化したのではないか。わたしはそう考えている。キャラクターに関する伊藤の見方は、現在のライトノベル、やおい小説、マンガ、アニメ、ゲームの愛好者や同人文化の傾向をよく説明している。例えば、ライトノベルの最も重要な要素の一つは、明らかにキャラクターである。毎年発行される『このライトノベルがすごい』(宝島社)に、作品ベストテンだけでなく、キャラクターベストテン欄(男性部門、女性部門だけでなく、ペット部門、カップル部門まである)が設けられていることを見ても、それがよく分かる。また作家の冲方丁(うぶかたとう)も『冲方丁のライトノベルの書き方講座』(宝島社文庫、2008年)で、キャラクターを設定し、プロットを決めていく制作方法を細かく披露している。これは、読者の受容だけでなく、作家の創作も155