ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

東アジアにおけるサブカルチャー、文学の変貌と若者の心にすれば、確かにケータイ小説になる。それが読者に受けた理由の一つなのかもしれない。先の座談会で、中村航は、先の発言に続けて、こう述べている。中村航「若い子たちはこういうのが読みたかったんでしょうね。でもどこへ行けば自分の読みたい本があるのかわからなかったと思うんです。その中で、「ケータイ小説」が一つの記号として現れてきたというのはあるんじゃないかなあ」。俗に「ケータイ小説七つの大罪」と呼ばれる、ストーリーの要素がある。ほとんどのケータイ小説が「売春、レイプ、妊娠、ドラッグ、不治の病、自殺、真実の愛」という七つの要素(モチーフ)の組み合わせでできていることを揶揄して言ったものだ。しかし、的を射た言い方ではないだろうか。ケータイ小説の読者は、こうしたモチーフや、その組み合わせとして構成されたストーリーのパターンを鑑賞しているような気がする。あるいは、それがキャラクターの代わりを果たしていると言ってもよい。中国、台湾、香港、シンガポールの読者に上記七つの大罪を紹介すると、みんなニヤニヤする。彼らもまた、パターン化された物語を感じ取っており、愛好者はそれぞれの要素(モチーフ)の組み合わせに楽しみを見いだしているようなのだ。同人活動も同様だ。先に触れたように、コスプレや、原作のキャラクターを借用して新たな物語を作る二次創作が、キャラクターに依存しているのは言うまでもない。こうした、日本から始まったキャラクターを中心に鑑賞する読み方は、すでに東アジアの諸都市の若者に共通のものになっている。少なくとも上記のジャンルでそうなのは明らかだ。では、彼らの作品の受容の仕方には、なぜこんな特徴があるのだろうか。5.仲間と読む上記のような作品を愛好する読者には、キャラクター中心の鑑賞のほかに、もう一つ特徴がある。ただ作品を読むだけでなく、同人活動の二次層創作やコスプレ、あるいは同人間のネット議論のように、作品を通じて相互にコミットをしようとする読者が少なくないことだ。彼らが作品の鑑賞を重んじていない訳ではない。面白い作品が読みたいという思いは、日本でも、他の東アジアの都市でも変わらない。各都市の調査で、ライトノベル(「軽小説」)、アニメ・マンガを問わず、作品のストーリーへの関心が最も高かったことがそれを示している。だが、それとともに、作品を話のタネにして仲間と話すのが楽しい、という回答も数多く寄せられていた。そしてインタビューでも、同様の発言が数多くあった。例えば、北京のアンケート調査の同人活動に関する自由記述の回答に、次のようなものがみられる。「(同人活動は──引用者)温かみがあります。知らない人が一緒に、大家族みたいになって自由に参加し、レベルの高低に関係なく自分の考えやアイデアを発表できるし、人の“突っ込み”も受けたりして、とてもいいグループのコミュニケーション方法なんです」。「同人活動は人と人の距離を縮めます。共通の言葉を持っている仲間を見つけるんです。組織の中での協調性や、仕事力など、人の能力も伸ばしてくれます。それに人の性格を変えるところもあって、より明るく、コミュニケーション好きになったりします」。上海でも、同人活動に参加しているRさんがインタビューで、「どのように創作を始めましたか」という問いに次のように答えている。「……アニメやマンガを見始めたのは中学二年の時です。……高校では趣味になったけれど、仲間の輪には入っていませんでした。ふだんの生活で感じていることなどをいくつか作品に書きました……作品をネットに公開して、交流したりもしました。大学でサークルに入ってから、グループ創作したり、一緒に本を出したりすることを覚えました。それで本格的にこのグループに入って、書き手になりました。……自分の考えがあって、それを伝えたいという欲求があったんです。例えば、寂しいとか、吐き出したい思いとか。想像によって解放したいと思いました。それで、創作を通じて探しています。そういう気持ちを記録して、人と共有するんです。共感してもらえたらもっとすばらしいけれど」。(2011年2月20日、復宣酒店ロビーのカフェでの集団インタビューより。)こうしたコミュニケーションを求める傾向は、台湾でも変わらない。インタビューにおける次のよう157