ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
WASEDA RILAS JOURNALな発言は、それを端的に物語っている。「ライトノベルの創作よりも、人と人の繋がりの方がずっと魅力的です」。(同人誌のライトノベル作者、ニックネーム水月流転さんへのインタビュー。2011年2月、台湾大学付近の喫茶店にて。)「ライトノベルは一つの動機を提供してくれます。わたしの最初の動機は小説を書いて投稿したいということでしたが、あるところまで来ると、飽きてきます。もう単に小説を書くためではなくなっています。小説を書くことで多くの人と知り合いになれるんです。より多くの人と知り合い、より多くの活動に参加して、一人ひとりと繋がっていきます。そして、もう一度ライトノベルの本質に戻ってくるんです。……わたしはただ小説を書いているだけかもしれません。でも、それだけではなくて、わたしの小説が好きな人と知り合いになることもできるんです。ただ小説のキャラクターが好きで、扮装してコスプレに参加している人のこともあります。ライトノベルは連結性、連続性を持っているんです」。(アマチュアの作者、ニックネーム宇宙油王さんへのインタビュー。2011年2月、台湾大学付近の喫茶店にて。)いずれの発言からも、「軽小説」(ライトノベル)やアニメ・マンガが同好の仲間と繋がるツールになっており、同人活動がその繋がりを実現する場になっていることが分かる。シンガポールでも、アンケートの同人活動に関する問いの自由記述回答で、複数の回答者が「同じ趣味の人と活動することに充実感を感じる」と述べている。また、同人活動に参加したことのある複数の大学生が、インタビューに答えて次のように述べている。「同じ趣味をもつ人が集まって各自が体得したことや考え方を共有し、互いに切磋琢磨するよい機会である」。「同人活動は社会の中でしだいに非主流の文化を強く表現するものになりつつある。個人生活において、その他の活動(家庭の活動や社交活動など)を代替していることさえある」。これらも、仲間とのコミュニケーションが、同人活動に参加するライトノベルやアニメ・マンガ愛好者たちにとって一つの目的となっていることを示しているだろう。「軽小説」(ライトノベル)やアニメ・マンガを愛好する東アジアの都市の若者にとっては、作品の完成度や深みを追求することともに、作品やその周辺の情報について、仲間と情報交換し、話をすることが重要なのだ。コスプレや二次創作はその一形態にほかならない。単なる鑑賞にとどまらず、彼らが創作に手を染める理由の一つに、ライトノベルや、マンガ、アニメの創作は純文学や芸術作品より敷居が低い、ということがあるだろう。純文学や芸術の創作には、才能が必要かもしれない。しかし、キャラクターを重視する上記のような作品の創作は、作家の冲方丁が『冲方丁のライトノベルの書き方講座』で書いているように、「キャラクター」「世界観」「アイテム」「プロット」などいくつかの要素の組み合わせとして考えられる。もし、それぞれの要素の作り方をマスターできたら、自分にも作れるかもしれない。自分もこんな作品を書きたい、という夢は思ったより近くにあるのだ。そうした思いはおそらく東アジアの都市の若者も同じで、中国でも同様のハウツー本が出ている。『写得郭敬明一様好(郭敬明のようにうまく書く)』(積木工作室、長江文芸出版社、2006年)がそうだ。この本では必ずしもキャラクターが重要視されている訳ではないが、創作の方法を細かく紹介されており、読者が「自分にも書けそうだ」と思えるような仕掛けになっている。そうして創作に手を染めた彼らが、自分独自のオリジナルな作品を目指すのは当然のことだ。しかし、現実の同人活動では、彼らはオリジナルとともに、あるいはそれ以上に、二次創作を重視する。それはなぜか。先に述べたように、その方が簡単だと言うこともあるだろう。だが、もっと重要なことがある。仲間とのコミュニケーションを図る上で、オリジナルな創作は不利なのだ。オリジナルの作品は、誰も知らないオリジナルであるがゆえに、自分の作品が同人やファン仲間に認められないことがあり得る。しかし、キャラクターや世界観を借用して作る二次創作なら、すでにみんなが熟知しているものを使って作る以上その心配はない。問題は、自分の作品が上手く書けて(作れて)いて、仲間に認めてもらえるかどうか、だけである。かれらが二次創作に傾斜する理由の一つはそこにあると、わたしは考えている。コスプレも、ただ自分で扮装するだけでなく、コミケやコンテストでみんなに披露する。場合によっ158