ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
東アジアにおけるサブカルチャー、文学の変貌と若者の心ては、コントやパフォーマンスを入れることもある。それも、仲間と一緒に楽しむ喜びを求めているからだろう。また、愛好者たちは、一つのジャンル、例えばライトノベル(「軽小説」)だけ、やおい小説だけ、アニメ・マンガだけを愛好する訳ではない。ほとんどが複数のジャンルにまたがって愛好している。それも、彼らが仲間との関わりを重視している現れだと思われる。単に作品を楽しむだけなら一つのジャンルだけで十分なはずだ。しかし、仲間と一緒に楽しむなら領域は広い方がよい。集まる仲間が増えれば、中での議論もより熱くなる。それにキャラクターに注目するなら、ジャンルを越えることは問題にはならない。好きなキャラクターを借用して、自分の好きな領域で活用すればよい。ファンや仲間もそのキャラクターを知らない訳ではないのだ。そうした、仲間と繋がりたいという思いが、彼らのライトノベル(「軽小説」)、やおい小説、アニメ・マンガなどの受容を支え、二次創作や、コスプレなどの同人活動を活発にしている。それは読者が作品に求めるものが変化していることを意味している。では、そうした作品に求めるものの変化の背後には、彼らのどんな思いが横たわっているのだろう。6.孤独、閉塞、あるいは幸福とキャラクターライトノベル(「軽小説」)や、やおい小説、アニメ・マンガ・ゲームに興じたり、二次創作やコスプレなどの同人活動をしたりする目的は、一義的には娯楽といってよい。各都市の調査でも、「同人活動のどこが好きですか」という質問に対して、「単なる暇つぶし」と回答した者が一番多かった。北京では同人活動に参加したことのある、あるいは興味のある回答者46名中33名、台北では338名中293名がそう答えている。だが、そうした娯楽にかなりの時間を割き、自ら関わる若者が少なくない。そこには、彼らをそう仕向ける力が働いているはずである?。言い換えれば、今の社会や、それを反映した文学・文化への彼らの思いを、背景に抱えているはずである。では、かれらが社会や、文学・文化に対して考えていることとは何なのだろう。現在の若者をめぐる環境には、あまり明るい話題が見あたらない。届けられるのは暗いデータばかりである。例えば、国税庁の民間給与実態統計調査結果によれば、2010年の給与所得者の平均収入(農家や自営業は含まない)は年412万円である。20歳~25歳では、男性が269万円、女性が237万円、25歳~29歳では、男性が366万円、女性が293万円になる。ただし、これは正規雇用者のばあいだ。2010年の総務省統計局の労働力調査によれば、非正規雇用者の60%が平均収入200万円以下で、20代の非正規雇用の割合は31.9%に上る。20代の若者の3人に1人が正規の職を持っておらず、収入は正規雇用に比べて100万円近く低いことになる。こうした若者の現状を受けて、雨宮処凜(あまみやかりん)は次のように述べている。00年代の若者たちは、あらかじめ「失わされて」いる。しかし、自分がいつ、具体的に何を失ったのかわからない。気がついたらカードが確実に減っていた、という実感があるだけだ。なんでか知らないけど生きるのが異様に大変、という皮膚感覚。90年代を経て「国際競争」や「グローバル化」という言葉に黙らされているうちに、多くの若者は「使い捨て労働力」に分類されてしまった。……「社会に出た」友人たちが満身創痍となり、次々と心身を壊していくのを目の当たりにしながら、少なくない若者が「労働市場」から撤退していった。(「漫画が描き出す若者の残酷な『現実』」、『小説トリッパー』2008年autumun所収)ここから浮かび上がってくるのは、孤立感、閉塞感を抱いて生きる若者の姿だ。だが、もちろんすべての若者が絶望しているわけではない。一方では、今の若者が幸福を感じているという報告もある。内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、2010年の時点で、20代男子の65.9%、女子の75.2%が「現在の生活に満足している」と答えており、その数字は1973年と比べて倍増しているという。(古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』講談社、2011年)また、内閣府の2010年「社会意識に関する世論調査」によれば、「国や社会のことにもっと目を向けるべき(すなわち社会志向)」か「個人生活の充実を重視すべき(すなわち個人志向)」かという問いに対して、20代の若者の55.0%が「社会志向」と答え、「個人志向」と答えた36.2%を大きく上回ったという。そこから浮159