ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

ページ
163/230

このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている163ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

東アジアにおけるサブカルチャー、文学の変貌と若者の心前をつけて、グループ間で「地位の差」を把握していることがわかります。……人によってそのパターンは少しずつ異なるようで「ヤンキー」「清楚系」「普通」「ちょい地味」「めっちゃ地味」「イケてるグループ」「イケてないグループ」「過激派」「中心」「穏健派」「静か系」など、その名付け方は枚挙にいとまがありません。(『教室内カースト』集英社新書、2012年)生徒は小集団に分かれ、それに所属しないと生きにくい環境になっているというのである。しかも、それぞれの集団は上下関係を伴っている。問題は、そうした小集団化が生徒たちの心に圧力を与えていることにある。鈴木によれば、生徒たちは、それぞれ自分の所属する小集団に見合うキャラクターを担わなければならず、「自分の気持ちと違っても、人が求めるキャラを演じることがある」という。こうした生徒たちの心の動きを、教育学者の土井隆義は次のように分析している。今日の若い世代は、アイデンティティというような言葉で表されるような、一貫したものではなく、キャラという言葉で示されるような断片的な要素を寄せ集めたものとして、自らの人格をイメージするようになっています。……彼らは、複雑化した人間関係を回避し、そこに明瞭性と安定性を与えるために、相互に協力し合ってキャラを演じあっているのです。(『キャラ化する/される子どもたち』、岩波ブックレット、2009年)小集団の中でキャラを演じるだけでなく、自己のアイデンティティーもキャラによって理解し、人間相互の関係性もキャラを通じて実践するようになっているというのだ。土井は、そうした生活のキャラ化が、生徒たちの社会観や人生観に深刻な問題を投げかけていると言う。九〇年代以降の学校では、「がんばれば必ず成功する」という生徒と、「何をやっても無駄だ」という生徒のあいだで、意欲の二極化も進んでいます。……この両極化の傾向は、「生まれもった素質によって人生は決まる」という感覚の広まりを示唆しているように思われます。……ある生徒たちは、必ず成功する運命にあると確信している……ある生徒たちは必ず失敗する運命にあると確信してしまう……人生の行方はあらかじめ定まっていると考えている点では、どちらも同じ心性の持ち主のように思われる。(『キャラ化する/される子どもたち』岩波ブックレット、2009年)社会はあらかじめ固定され、自分はその中で与えられたキャラを演じるほかない。それを自分で変えられる可能性を感じることは難しい。そんな感覚が醸成されているというのだ。彼らの分析が正しいとすれば、それは先に述べた若者の閉塞感、あるいは社会との隔絶感と密接に繋がっているだろう。そんな若者にとって、キャラを中心に読むのは身近であるに違いない。ライトノベルやアニメ・マンガの若い読者たちが作品の深さとともに、同好の仲間との交流を求めるのは、当然のことだと言ってもよいだろう。こうした事情は、東アジア諸都市の若者にとっても大きな変わりはない。例えば中国では、1979年以来一人っ子が続いている。今の十代、二十代の若者に兄弟はほとんどいない。生まれたときから孤独だといってもよい。学校に通いはじめると、過程でも学校でも、厳しい受験教育(「応試教育」という)が始まる。万一、大学に受からなければ人生が変わる。しかも、中国の大学進学率は23.0%(「中国教育統計年鑑」2007年版、教育部発展規画司編、人民教育出版社による)、日本の約三分の一である。そうした圧力は子どもたちの大きなストレスになっている。高校生の息子が勉強をせっつく親を殺害する事件まで起こっている。しかも、首尾よく大学に合格したとしても、卒業時には就職難が待ち構えている。大学を卒業したものの、正規の職に就けない、あるいは条件の悪い職にしかつけない若者が多く生まれている。彼らは狭い部屋に大勢で密集して暮らすため「蟻族」と呼ばれ、政府も関心を寄せる社会問題になっている。(廉161