ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
WASEDA RILAS JOURNALで壁画の細部を観察し、銘文を解読しなければ、モノグラフは不可能である。早稲田大学による調査申請は、これまでことごとくオフリド主教によって退けられてきたが、2010年8~9月にかけて、奇跡のように短期の調査許可が出た。その際慌ただしく撮影された写真をもとに、今後この聖堂の装飾プログラムを考える論考を書き継いでゆきたい?。メダイヨン人物像の記述本稿で述べるのは、ごくささやかな図像に関する解釈である。アプシスにはオランスの聖母が堂々たる体躯で描かれ、その下には「使徒の聖体拝領」がペテロを先頭とするパンの場面(左)と、ヨハネを先頭とするワインの場面(右)に分割されて配される【図1】。主教聖人の半身像を描くフリーズ?を挟んで、床に接する最下段は典礼文を記した巻物を手にする主教・神学者たちが並ぶ。規模の大きい聖堂ゆえに、4段構成になっているが、アプシス図像として特異な点はない。逆U字形の壁面がアプシスを囲んでおり、そこには計29個のメダイヨンが均等に配され、上部の3つを除いて旧約の人物頭部が描かれている。ビザンティン聖堂に旧約の人物が登場するのは、ドームドラム下の鼓胴部にキリストやマリアを予型した預言者が配される程度で、本聖堂にも鼓胴部に12人の預言者が並ぶ。聖域という重要な場に、これほど多くの旧約人物を描くのは、これまで見られなかった現象である。画家がいかなる意図をもって、これらの人物を選び、並べたのかを考察するのが本稿の目的である。煩瑣ながら、まず人物の同定を行なおう【図2】。1はIC XCとの略号が付された、十字架ニンブスをもつインマヌエルのキリストである。アプシスのコンク上部にインマヌエルが描かれる例は少なくない?。その両側には大天使ガブリエル(2)、大天使ミカエル(16)が侍する。「聖母子、二大天使」の組合わせは、ビザンティンのアプシス・プログラムとして最もふつうの図像である【図3】。3は「預言者」モーセである(詩98:6 ?では「祭司」と呼ばれる)。3~5、17~18の人物には「預プロフィティス言者」の銘があり、6~15、及び19~29にはディケオス「正しい人(義人)」との銘が付される。3と対になる17は、モーセの兄にして最初の大祭司アロンである(出28:1他)。4は祭司サムエル、その対が預言者フル(希:Or) ?で、フルについてはのちに詳述する。5は預言者ザカリア(ゼカリヤ)、19は大祭司メルキゼデク(創14:18、詩109(110):4、ヘブ5:6他)。6はモーセの後継者ヨシュア(希:Iesous tou Naui)、20に配されたアロンの孫ピネハス(希:Phinees)は「永遠に大祭司の職を継ぐ者」(シラ45:24)と呼ばれる。7、8、9にはイスラエルの長老アブラハム?、イサク、ヤコブ?の三代が並ぶ。「最後の審判」図で、しばしばこの3人の坐像が天国に描かれ、救われた者の魂を抱いている。「神は続けて言われた。『わたしはあなたの父の神である。アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である。』モーセは、神を見ることを恐れて顔を覆った」(出3:6) ?の一節も想起しよう。本聖堂ナルテクスには「燃える柴とモーセ」の場面が、西壁中央扉口上という重要な場所に図1オフリド、パナギア・ペリブレプトス聖堂アプシス18