ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL図5イスタンブール、コーラ修道院ドーム、キリストの祖先として、ナルテクスに描かれている。すなわちアプシスの周囲に描かれたヤコブの12人の息子は、十二使徒を示唆して堂内のキリスト伝サイクルにつなげる効果をもつ23だけでなく、モーセと十二部族の連結がナルテクスに描かれた聖母予型諸場面をも改めて想起させるのである。「出エジプト記」を読み進めれば、モーセは従者のヨシュア(メダイヨン6)とともに神の山に登り(24:13)、長老たちに告げる。「わたしたちがあなたたちのもとに帰って来るまで、ここにとどまっていなさい。見よ、アロン(メダイヨン17)とフル(同18)とがあなたたちと共にいる。何か訴えのある者は、彼らのところに行きなさい」(出24:14)。この一節がフルを描く理由の一つである。パナギア・ペリブレプトス聖堂の装飾プログラムは入念に計画され、堂内各図像は密接なネットワークによって結ばれている。その網の目をできる限り読みとり、解きほぐすことが私たちの課題である。モーセ、ヨシュア、アロン、フル、ヤコブの12人の息子の組合わせは、ナルテクスの「モーセとアロンの幕屋」、「十戒を受けとるモーセ」とつながり、したがってモーセが山のふもとに築いた祭壇(出24:4)は、アプシスに設置された現実の祭壇と重なることになる。メダイヨンの人物の多くが祭司であるのは、祭壇で儀式(奉神礼)を執行するためである。アブラハム・イサク・ヤコブの三代が、「神は続けて言われた。『わたしはあなたの父の神である。アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である。』モーセは、神を見ることを恐れて顔を覆った」(出3:6)を介して、ナルテクスの「燃える柴とモーセ」に連結することは述べたが、アウグスティヌスらの聖書釈義によれば、三代は同時に神の「三位一体」を予型する。本聖堂は強迫観念のように「三」、「三位一体」を繰返している。プロテシス(北小祭室)天井の「アブラハムの饗宴」は「三位一体」の直接的な予型であるし、これに対面する「エマオの晩餐」はキリストと2弟子、すなわち三人物を描く。ディアコニコンには「炎の中の3人の少年」(ダニ3:8-30)、聖母伝には「マリアを祝福する3人の祭司」が描かれる。後者の3祭司は、ナルテクスの「エゼキエルの閉ざされた扉」に登場する3祭司と同一の容貌をしている。同じくナルテクスの「ネブカドネツァルの夢解き」に現れる天使は三頭である、等々。最後に残ったメダイヨン15には、士師ギデオンが描かれる。このギデオンのみ、私にはコンテクストが不明である。旧約の預言者や長老をコンク周辺の弧に配し、ヤコブの息子たちを下部の垂直壁面に並べるという大枠の中で、ただ一人イスラエルの士師ギデオンが、右最下部を占めている。キリスト教図像学にギデオンは、「土は乾いているのに羊の毛だけが露で濡れている」(士6:36-40)奇跡が、マリアの処女懐胎を予型する24ものとしてしばしば登場する。ミハイルとエウティキオスが描いた聖堂においても、スタロ・ナゴリチャネ(ナゴリチノ)(マケドニア)の聖ゲオルギオス(ギョルギ)聖堂で、濡れた羊の毛を手にするギデオンが描かれている。しかし聖母予型を並べたペリブレプトスのナルテクスには、ギデオンが登場しない。名高い聖母予型であるギデオンをナルテクスに描かなかったの22