ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
聖母よ、御腕を支えんで、画家たちはここに士師を描いたものだろうか。預言者フルの役割さて、以上で29のメダイヨンの意義を概観したが、最後に詳しく論ずべきは18の預言者フルである【図6】。旧約の中に「フル」の名をもつ者は、5人登場する。アラムの子孫(創10:23、代上1:17)、ユダの子孫(出31:2、出35:30、出38:22、代上2:19-20、代上2:50、代上4:1、代上4:4、代下1:5)、ミディアンの王(民31:8、ヨシュ13:21)、エルサレム半地区の区長(ネヘ3:9)、そして本稿の対象となるモーセの協力者である(出17:10-12、出24:14)。出24:14がフルの存在を説明し得ることは述べたが、それだけでは不足である。イスラエルがアマレク(エサウの孫の子孫)と闘ったときの記述を読もう。モーセはナイル川を打って水を血に変えた神の杖(出7:17以下)、ホレブの岩を打って水を出し、民をうるおした神の杖(出17:6)をもって、丘の頂に立った。ヨシュアはモーセが彼に言ったとおりに行ない、アマレクと戦った。モーセとアロン、そしてフルは丘の頂に登った。モーセが手を上げると、イスラエルが優勢となったが、彼が手を下ろすと、アマレクが優勢となった。モーセの両手は重くなって下がった。そこで彼らは石を取ると、(それを)彼の下に置いた。モーセはその上に座った。アロンとフルは、ひとりずついずれかの側から、彼の手を支えた。(こうして)モーセの両手は日没まで支えられていた。ヨシュアはアマレクとその民を剣で殺し、(その)すべてを敗走させた。(出17:10-13) 25アロンとフルがモーセの腕を支えて挙げさせる限り、神の加護が失われることはなかった。今ペリブレプトスのアプシスでアロンとフルが支えるのは、モーセの腕ではない。コンクでただ独り、神に祈りを捧げるために両腕を挙げ続ける聖母マリアの、その腕を二人は支えているのである。マイナーな人物フルが、このように重要な場にいるのは、聖母の腕が疲れたときに、それを支えるためなのである。この解釈は牽強付会であろうか。傍証をいくつか挙げる。まずはこの箇所に関する、初期教父たちの解釈を見よう。非キリスト教徒にとっては小さなエピソードであっても、この箇所は教父たちに読まれ、解釈されてきた。ヨハネ・クリソストモスは『ヨハネ福音書に関する第14説教』26において、「律法はモーセを通して与えられたが、恵みと真理はイエス・キリストを通して現れた」(ヨハ1:17)という一節を、「出エジプト記」との対比で解釈している27。アロンとフルがモーセの左右に立って腕を支えることと、キリストが両腕を伸ばして磔にかかったことを対比して、「(律法が)与えられた」と「真理が現れた」の違いに対応するとクリソストモスは述べる。アウグスティヌスも『詩篇第43篇註解』において、詩篇43全体をキリスト受難の予型として解釈しつつ、モーセとその腕を支えるアロン、フルの3人を十字架の予型とする28。図6預言者フル(左の赤いメダイヨン)23