ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALアマレクの戦いにおける3人を、視覚的に「磔刑」になぞらえた解釈である。現存する八大書のうち、Cod.Vat.gr.747(f.94)【図7】;Topkap? Saray? Library(Istanbul)、Cod.G.I.8(f.207v);Smyrna(Izmir)、Evangelical School Library、Cod.A.I(f.86);Cod.Vat.gr.746(f.202v)の4冊がこの箇所に挿絵を有しており、いずれも「磔刑」と似た挙措でモーセを描いている29。ビザンティン世界でよく読まれ、挿絵入り写本30の多いナズィアンゾスのグリゴリオスも、説教でこの箇所に言及している。372年に書かれた「第12説教」は、政争がらみで設けられたカッパドキアの新教区に主教として赴任するよう求められた際に、気の進まぬ理由を述べたもの31。山上でモーセの両腕を支えるというアロンとフルの仕事は、アマレクが十字架によって打ち負かされた、ということをとうの昔にあらかじめ示して(予型して)います。(しかし)私たちには相応しくもなく、当てはまりもしないものとして、私はできれば通り過ぎたいのです。なぜならモーセは彼らを、法の授与者としての仕事を分かつために選んだのではなく、祈りに際しての助けとして、彼の腕の弱さの支えとして選んだからです。(12.2)ここでグリゴリオスは、クリソストモスやアウグスティヌス同様、3人の姿勢を十字架の予型としつつ、モーセの重要性、アロンとフルの援助者としての控えめな役割を語っていると言えよう。このように教父文献を紐解いても、出17:12はよく知られていたことがわかる。傍証の第2点目は、聖母に関する予型論的解釈である。教父による旧約解釈の伝統では、アロンとフルに支えられるモーセの姿勢は、磔刑のキリストを予型する。しかしペリブレプトスのアプシスに立つのはキリストではなく、聖母マリアである。なぜモーセがマリアに置き換えられるのか。それを理解するためには、アマレクの戦いを記述した「出エジプト記」の直前の箇所を想起しなければならない。宿営地で水が得られなかったイスラエル人は、指導者モーセに水を求めて詰め寄る。モーセは主に向かって叫んだ。「この民をどうすればよいのでしょうか?彼らはわたしに石を投げつけようとしております。」すると主はモーセに向かって言った。「この民の前を行き、民の長老たちの一部を伴うがよい。そしておまえたちを撃った杖をおまえの手に取り、進むがよい。見よ、わたしはおまえが来る前に、ホレブの岩の上に立っている。おまえはその岩を撃つがよい。するとそこから水が出て、民は(それを)飲むであろう。」モーセは、イスラエルの子らの前で、そのとおりにした。(出17:4-6) 32ホレブの岩から水をあふれさせるモーセの図像は、古く初期キリスト教石棺などでも「救済のパラディグマ範例」として用いられてきたが、これはまた聖母マリアの予型としても語られる。オリンポス(トルコ、リキア地方)主教メトディオス(311年頃殉教)の「シメオンとアンナに関する説教(キリスト神殿奉献)」の一節を見よう。キリストを抱きとった祭司シメオンの口を借りてメトディオスは聖母賛美を連ねる。「モーセと燃える柴」(出3:2)や「アロンの芽吹く杖」(民17:8) 33といったお馴染みの聖母の予型イメージに加えて、シメオンはホレブの岩の奇跡を聖母に重ねる。図7 Cod.Vat.gr.747, f.94アマレクとの闘いさらに堅くごつごつした岩は、あなたから全世24