ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
聖母よ、御腕を支えん界のために湧き出でる恩寵と快復を思い起こさせるものですが、渇いた場を出て荒野にある弱った人々のために、ふんだんに癒しの美酒をもたらすのです34。ある。オランスの聖母の掌から水がほとばしる大理石製イコンは、これ以外にも多く残っている39。つまり多くのビザンティン人にとって、公共の泉水施設において、オランスの聖母の掌から水が湧き出す光景元来聖母と水のイメージは親和的であった。マリアは通常の「受胎告知」以前に、井戸(泉)で水を汲んでいるところに天使の訪れを受けている(ヤコブ原福音書11)。ちなみにマリアの母アンナもまた、泉のほとりで天使から妊娠のお告げを受けた35。しかし何より重要なのはオランスの聖母の泉水施設の問題である。コンスタンティノポリスの北西に位置するブラケルネBlachernai修道院は、女帝プルケリアによって450年頃にバシリカが建立された、帝都で最も著名な聖母を祀る巡礼地であった。5世紀後半にはパレスティナから聖母のマント(マフォリオン)がもたらされ、いっそうの隆盛を見る36。聖堂は1070年に被災し再建されたが、それに遡る10世紀半ば頃、修道院には聖母の掌から水の湧き出でる奇跡の大理石製イコンが存在した37。このイコンに最も近いとされるのが、マンガナの聖ゲオルギオス聖堂附近から出土した大理石断片である【図8】38。縦200センチに及ぶ大型大理石イコンは、聖母の掌に穴が穿たれ、そこから水が噴出する仕掛けであった。まさに人々に「癒しの美酒」を与えたので図8マンガナの聖母、イスタンブール考古学博物館は眼に馴染んだものだった。モーセがホレブの岩を打って水を湧き出させたように、聖母マリアはその掌から常に水を与えて人々の渇きを癒す。ここにおいて、ペリブレプトス聖堂アプシスのマリアは、モーセと可換の存在となる。かつてアロンとフルがモーセの両腕を支えて、アマレクとの闘いに勝利したように、今日、そしていつまでも、アロンとフルは聖母の腕を支え続ける。神への祈りが途切れぬよう、また聖母の恩寵が信徒にいつまでも注ぐように。注? C. Grozdanovによるモノグラフ的な論文集が予告されているが、今のところ未刊と思われる。C. Grozdanov,Church St.Kliment Ohrid, Zagreb 1988は小型のガイドブックである。J. Poposka, Church Mother of God Peribleptos (St.Clement), Ohrid 2006は、現地聖堂の管理をする学芸員が著した奇著。学問的な価値は皆無であるが、カラー写真を多数掲載する。?これまで筆者が発表したのは以下。「ビザンティン聖堂装飾のイコンとナラティヴ」甚野尚志・益田朋幸編『ヨーロッパ中世の時間意識』知泉書館、2012年、309-35頁。?グロズダノフはこの主教たちにオフリド的性格が認められると論じている。Ц.Грозданов,“Попрс?аархи?ере?ауолтаруцрквеБогородицеПеривлептеуОхриду,”Zograf 32(2008), pp.83-90.?拙稿「アギイ・アナルギリ聖堂(カストリア)東壁面のプログラム」『美術史研究』41冊、2003年12月、65-80頁参照。?ヘブライ版(新共同訳)では99:6。以下詩篇の引用はギリシア語訳(セプトゥアギンタ)による。?ペリブレプトス聖堂に関して、最も詳細な記述を行なったP. Miljkovi?-Pepek,ДЕЛОТОНАЗОГРАФИТЕМИХАЛОИЕУТИИ?, Skopje 1967, p.48では銘が読めず「不明」とされていた。D. Vojvodi?,“ОЛИКОВИМАСТАРОЗАВЕТНИХПРВОСВЕШТЕНИКАУВИЗАНТИ?СКОМЗИДНОМСЛИКАРСТВУСКРА?АХ???ВЕКА,”ZRVI 37 (1998),pp.121-153.で「フル」との同定がなされた。?プロテシス(北小祭室)天井南側の「アブラハムの饗宴」にも登場。?ナルテクスの「ヤコブの梯子」と「天使と闘うヤコブ」にも登場。「ヤコブの梯子」は天と地をつなぐものとして、マリアを予型する。?この章句は教父たちによって、「三位一体」の予型と解釈されてきた。後出註22参照。ナズィアンゾスのグリゴリオス『神学説教』4.19等も参照。? Vojvodi?, art. cit.. 13世紀末の聖堂(パナギア・ペリブレプトス、アリリェ、プリレプの聖ニコラ、アトスのプ25