ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
ローマ周辺における「シルウェステルの竜退治」図像髪だが、「コンスタンティヌス帝の寄進」後、「馬丁の務め」からフリギウムを被った姿で描かれた50。シルウェステルが5人を率いているため、シルヴェストロ礼拝堂の「竜退治」の典拠は『シルウェステル伝』B版であると考えられる。画面上部に塔と城壁が遠景として描かれており、チェーリやティヴォリのようなフォルムのウェスタ神殿、サンタ・マリア・アンティクァ聖堂、サンタントーニオ聖堂などの建築物が認められない。こうした描写から、礼拝堂の竜の洞窟はカピトリヌス丘の地下であったとも考えられるが、大部分が?落したため、詳細を確認できない状態である。アラートリのサン・シルヴェストロ聖堂は、11世紀に献堂され、聖堂内には13~15世紀に遡る壁画装飾が残る51 (図10)。部分的な?落がある「竜退治」は勝利門壁面の右側基部に配される。画面中央、剃髪のシルウェステルは教皇のパリウムを身にまとって、左側の竜の口を紐で締める。シルウェステルの右には助祭2人が並び、1人は司教杖を携えている。背景は濃紺色で塗られ、建築物は認められない。先行研究によれば、アラートリの壁画は1200-10年に制作された。サン・シルヴェストロ聖堂の大部分の壁画は?落し、全体像を確認できないが、マッダーロは、アラートリに「竜退治」だけでなくシルウェステル伝サイクルが描かれ、ティヴォリの聖堂装飾プログラムを踏襲する装飾プログラムが展開したと考えた52。たしかに、アプシスに表されたティヴォリの「竜退治」と勝利門壁面に描かれたアラートリの作例には、図像配置という点で影響もあり得るが、「竜退治」はシルウェステル伝の中でも頻繁に単独で表されたエピソードであった。「竜退治」場面の存在から、アラートリにシルウェステル伝サイクルが展開したと想定するマッダーロに筆者は同意しない。ローマ周辺における「シルウェステルの竜退治」を概観してきたが、ここでティヴォリ、サン・シルヴェストロ聖堂の作例を取り上げたい(図1)。画面中央、剃髪のシルウェステルは教皇の衣服を身にまとい、右側に立つ竜の口を十字架の封印がついた紐で縛る。シルウェステルの左に助祭2人が松明と吊り香炉を持って付き添っており、彼らの背景にはアプシスを備えた大きな建築物がある。続いて、シルウェステルと竜の背後には両側に2本の円柱が立った階段、竜の洞窟を示唆する建築物が並ぶ。竜は洞窟の中で長い首を曲げて眼を閉じながら、かぎ爪を前方へ突き出しており、防御するようである。前述の作例群とティヴォリの作例を比較すると、いくつかの特徴が明らかになる。①「竜退治」はシルウェステル伝サイクルの1場面である。②シルウェステル伝サイクルが左から右へ進むため、竜の洞窟は、ピサの浮彫同様に画面左側から右側へ移動する。③竜は灰色がかったエプロン状のものを胴体に巻く。④階段の両側にある円柱の上に渦巻き状のモティーフが描かれる。⑤チェーリのように、洞窟へ行くための建物に鉄の扉が描かれていない。⑥銘文は記されていない。⑦使徒ペテロとパウロが描かれていない。ティヴォリの建築物の描写から、「竜退治」が起きたのは『シルウェステル伝』A版のフォルムのウェスタ神殿、『都市ローマの驚異』で「冥府」と呼ばれた場所に建つサンタ・マリア・アンティクァ聖堂、サンタントーニオ聖堂のいずれかであると考えられるが、チェーリ同様、画中に特定する要素は描かれていない。シルウェステルに付き添う助祭が2人であること、建築物の描写を考慮すると、ティヴォリの「竜退治」が『シルウェステル伝』A版を典拠にしたのは明白であろう。「竜退治」の2人の助祭が「コンスタンティヌス帝の洗礼」、「論争」、「雄牛の奇跡」においてシルウェステルの傍らに立つ助祭と外見が酷似することに、注目したい。助祭らは、剃髪であるが、1人は縮れ毛でもう一人は丸みを帯びた髪型であり、描き分けられている。ランツはシルウェステルら3人を3場面に配したことについて典礼的要素を指摘したが、ティヴォリの助祭らは単なる助祭ではなく、シルウェステルの後継者たちであり、シルウェステルら3人は「ローマ教会」の表象とも考えられる53。カルヴィ、チェーリでは、「竜退治」に使徒ペテロとパウロが表され、ローマを守護する両使徒が「ローマ教会」を示唆するシルウェステルと後継者の司祭に付き添っていた。ティヴォリの「竜退治」に両使徒は描かれないが、シルウェステル伝の上部、アプシス・コンカにはトラディティオ・レギスという、キリストが使徒ペテロに法を授与し、使徒パウロがそれを称揚する図像が配される54。トラディティオ・レギス図像はカルヴィとチェーリにおける両使徒と同様の機能を担い、両使徒、シルウェ35