ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL図1フレスコも13世紀末のものが大半を占め、1200年のものはアプシスに残るのみである。筆者は先年より副題にある「後期ビザンティン聖堂(13~15世紀)の儀礼化の進展」を研究課題としているが、小型ながらも多層で複雑な装飾プログラムを有するスヴェティ・ニコラ聖堂の研究は筆者の課題を前進させる一助となろう。そこで、本稿ではスヴェティ・ニコラの特色を明らかにするために全壁面のプログラムを記述し、キリスト伝サイクルの変遷とその文化的な背景を概観する。その上で、時代・地域ともに近接する作例との比較を通じて、同聖堂のキリスト伝サイクルがどのように形成されたのかを検討する。記述スヴェティ・ニコラ聖堂に関する総合的なモノグラフは現在も出版されておらず、また本稿の議論とも深く関わってくるため、以下、キリスト伝の順番に沿ってプログラムを記述する(図2)。東壁にはアプシスが設けられ、周縁部は4層に分節される。上2層がキリスト伝図像である。アプシ図2ス上のリュネットには「昇天」が配された。頂部ではキリストが2人の天使に運ばれ、キリストはマンドルラを帯びて右手で祝福している。その下にオランスのマリアが置かれ、左右のミカエルとガブリエルが天に昇るキリストを指す。大天使の脇にはそれぞれ6人の使徒が配されている。東壁第2層はアプシスを挟んで「受胎告知」が置かれる。アプシスの左にガブリエルが、右にマリアが描かれる。ガブリエルは左手に笏杖を持ち、右手を突き出してマリアに語りかける。軽く頭を垂れたマリアは左手に糸車を持ち、胸の前で右掌を拡げて受け入れている。左上に描かれた半円形の光から光を帯びた聖霊がマリアに下る。受胎告知に始まるキリスト伝は3層に分節された南壁の第1層に続く。第1層は幼児伝と公生涯から2場面ずつ採られ、物語は東(左)から西(右)に進行する。受胎告知に隣接する東端には「降誕」が置かれている。洞窟内のマリアは上体を起こし、両手を幼子キリストの顔に添える。その下に産湯に浸かる幼子が異時同図法で描かれる。洞窟左には供物を携えた三博士、上に礼拝の姿勢をとる三天使、下に頬杖をついて座るヨセフが配される。画面右上には羊飼いへのお告げが組み込まれ、その下で二人の羊飼いが天に輝く星を指し示す。「降誕」に続くのは「神殿奉献」である。中央に祭壇が配され、左に女預言者アンナとシメオンが描かれる。アンナは右手に巻物を拡げ、左手を右上方に差し上げる。シメオンは深く頭を垂れ、長衣で覆った両手を差し出す。祭壇の右にはマリアとヨセフが描かれる。マリアは背筋を正して両腕に幼子キリストを抱く。幼子は両腕を拡げて母に抱かれる。ヨセフは軽く頭を垂れ、上目遣いにマリアやシメオンを見つめる。「神殿奉献」の右隣には「洗礼」が置かれる。キリストは腰布一枚の姿でヨルダン川に身を浸す。川には魚の群れ、ヨルダン川の擬人像、海の擬人像が描かれる。ヨルダン川左岸にはキリストに按手する洗礼者ヨハネが配され、右岸では4人の天使が腰を屈め、長衣で覆った両手をキリストに差し出す。キリストの頭上に描かれた半円形の光から聖霊が下る。第1層西端は「ラザロの蘇生」である。左のキリストは左手に巻物を持ち、右手を差し出してラザロに呼びかける。キリストの背後に6人の使徒が従い、前方に1人の使徒がいる。キリストの足下にマ44