ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

キリスト伝サイクルの変容とスヴェティ・ニコラ聖堂の装飾プログラムルタとマリアの姉妹が跪くが、足に縋る女性がマルタ、ラザロを振り返る方がマリアと推察される。姉妹の背後に墓の蓋を取り去る人が、上にユダヤ人の群れが描かれる。最前列の人物は衣の裾で鼻を覆う。墓穴には帷子に包まれたラザロが置かれる。ここで、スヴェティ・ニコラのキリスト伝は西壁に移る。4層に分節された西壁の第1層には「変容」が置かれる。頂部のキリストは左手に巻物を持ち、右手で祝福する。キリストはマンドルラを帯び、衣は白く輝く。左にはイリアが、右にはモーセが控える。左下のペトロは跪き、キリストに両手を差し出して語りかける。下方中央のヨハネは師の変容を恐れて地に踞り、右手で頬杖をつく。右下のヤコブは山から転げ落ちている。福音書によれば、南壁の「ラザロ」は、本来この「変容」の後に続くエピソードであるが、スヴェティ・ニコラでは前後を入れ替えている。キミシス第2層は「聖母の眠り」である。「キミシス」を西壁に置くのはビザンティン聖堂装飾の定型であり、スヴェティ・ニコラもこれに倣う。画面中央に寝台が置かれ、マリアが横たわる。口から有翼の赤子姿の魂が飛び出し、キリストはその両手を掴んで抱きとめようとしている。キリストの背後に天使の群れが控える。寝台の左の使徒は光輪に左からΘW、Β、ΛΟY、Μ、ΠΕ、ΙWの銘を持ち、トマス、バルトロマイ、ルカ、マタイ(マルコ?)、ペトロ、ヨハネ、右の使徒は左からΠΑY、CI、IA、MA、AN、Φの銘から、パウロ、シモン、ヤコブ、マルコ(マタイ?)、アンデレ、フィリポと同定できる。西壁の「変容」は北壁の第1層へと続き、物語は西(左)から東(右)に進行する。北壁はこれまでの壁面を担当した画家の手と異なる。特に肌の明暗を強調して目の周りを濃く縁取る描法やコントラストが低く平板な衣襞に相違が見いだせる。西壁の「変容」に続くのは北壁の西端に配された「エルサレム入城」である。画面左では、驢馬に乗ったキリストが右腕をエルサレム市民に差し出す。ビザンティンでは稀だが、キリストは後ろ姿である。キリストには7人の使徒が随行する。驢馬の足下には小さく描かれた3人の人物が道に上着を敷く。キリストの背後の木にも小さな人物が描かれ、一行の入城を見物する。エルサレムの門前ではユダヤ人の群衆が歓呼をもってキリストを迎える。「入城」の右隣の「洗足」は画面右下が?落し、使徒の頭部、ペトロの右半身と足しか確認できない。キリストは長衣を脱ぎ、手拭いをペトロに差し出す。ペトロは水盤に右足を入れたまま、上半身を仰け反らせ、額に手をやって頭も洗ってくれるようキリストに頼んでいる。「洗足」には「最後の晩餐」が続く。楕円形の食卓にキリストと使徒が着席する。キリストは右端に腰掛け、右手を前に差し出す。ヨハネはキリストに縋り、右手を師の胸に添え、左手を軽く挙げて師に問いかける。ペトロはキリストに対置される。食卓には器が3つ並び、周囲に三角形のパンや蕪が散らばる。食卓の頂部に座るユダは身を乗り出して右端の器に供された魚を掴む。前景に座る4人の使徒の内、2人が後ろ向きで描かれている。第1層の東端は「ゲツセマネの祈り」である。画面を占める丘を舞台に、左端にペトロに目覚めておくよう言いつけるキリスト、頂部に腰を屈めて祈るキリスト、右端に天を見上げて思い悩むキリストが異時同図法で描かれる。丘の麓では使徒が思い思いの姿勢で眠っている。横臥する者もあれば、膝を抱えて眠る使徒もいる。対話するキリストとペトロは、キリストが戻ってペトロを叱る場面とも読み取れる。「ゲツセマネ」は10世紀までのカッパドキアに散見されるものの、他の地域では中期ビザンティンを通じて描かれることはなかった。つまり、「ゲツセマネ」は後期になって再び聖堂装飾に導入された図像なのである。ここで受難伝は南壁の第2層に移る。第2層でも物語は第1層と同様に東(左)から西(右)に進行する。東端は「ユダの裏切」である。ユダはキリストを左側から抱擁し、頬に口づける。両者の背後にはユダヤ人と兵士が群れをなし、キリストの左右の兵士がキリストに手をかけて捕縛する。右下ではペトロが大祭司の僕マルコスを背後から取り押さえ、膝で踏みつけにして耳を削ぐ。マルコスは俯いて両手で顔を覆う。「裏切」に続くのは「手を洗うピラト」である。中央でピラトが玉座に坐し、左のキリストに対面する。キリストは左手を右手に添え、ユダヤ人と兵士の間に佇む。ピラトは下僕が注ぐ水で両手を洗い、顔を右後方のユダヤ人の群れに向ける。群衆の先頭に白髯のユダヤ人が2人配されているが、銘文から大祭司のカイアファとアンナスと知れる。「ピラト」の右隣は「キリストへの嘲弄」である。45