ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

文化的景観の危機と再生尾崎館周辺の景観(1988年10月撮影)豊後国田染荘(中世前期~近世)ておかなければならない。水田一枚ごとの正確なデータを記録するものであるからである。実施計画図に水田一枚ごとの取水口と排水口の位置を明示し、水路灌漑・田越灌漑の違いを明らかにする。さらに水田の状況について、乾田・湿田・強湿田のいずれであるかを記入し、耕土が砂地であるか否かも表面観察でわかる範囲で調べておく。圃場整備事業の工事は秋の収穫後から次年度の田植えまでに行われるから調査の期間もきわめて限られる。時期により水田の表面観察が出来ない場合には、聞き取りにより水田の状況を記録する。その際、裏作として麦が支障なく作られる場合には乾田、水田の乾きが不十分で麦作に影響がある場合は湿田、地下水位が高く、麦作が不可能な場合には強湿田とする。1:1000の図面をベースとしたこのような調査図を灌漑詳細図と呼ぶことにする。灌漑概況図は、井堰・池・天水の区分が基本的なものであり、その地域の灌漑体系を一枚ないし二枚の図面で把握されるものである。圃場整備事業にかかる水田のみではその地区の灌漑状況は把握できず、水利組合などから聞き取りを行って水利刊行を把握する必要あり、それにはこの灌漑概況図がきわめて有効である。以上で、フローチャート上段の枠内の圃場整備事業に緊急調査による記録保存が終わる。フローチャートの中央にある「調査記録を総合し、遺跡の価値を確認」をしなければならない。その際、右からの矢印で示されているようにその地域に関する文献史料の照合が重要である。1987年には調査が終了?。「宣言」に示された理念が初めて実態化された。その結果、日本において13世紀以来の水田景観が残るほぼ唯一の場所であることが明らかとなった。1988年秋には、東京大学の史学会大会日本史部会のシンポジウムで報告をする機会を得た。当時はまだパワーポイントの普及する前の時代であり、120枚のスライドを用意して、約2時間の報告をおこなった?。まとめとして次の3枚の画像を使い、この地の未来を予測した。まず第一に尾崎館周辺である。鎌倉時代、この地は宇佐宮神官であり、在地支配に意欲を持った尾崎氏の屋敷があり、その北隣に屋敷のあった田染宇佐氏との神領興行法に基づく相論が確認され、周囲にはこの時期に開発された水田が展開している。室町期には田染宇佐氏の居館が営まれ、次第に城郭化していった。このような変遷を確認できる夕日岩屋からの眺望は極めて感動的である。現在(1988年当時)40戸ほどの農家があり、次代までは村落としての再生産性を維持しているが、専業農家の中には大規模農業を指向する人たちもあり、今後大きく景観が変わる可能性もある。第二には大曲(おおまがり)地区があげられる。ここは尾崎館周辺よりは規模の小さい棚田で、室町時代における小規模名の拡大と集落名の成立を実感69