ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

ページ
79/230

このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている79ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

文化的景観の危機と再生エコミュゼにおける復元民家(2013年3月撮影)辺に展開して景観的にムラのまとまりが理解できるのである。特にカトリックの教会では現代においてもさまざまな儀礼が行われ、日常的にいくつもの鐘が鳴らされて視覚的にも聴覚的にも人々の生活の中に溶け込んでいる。東アジアの農村が近代化・現代化に向けて都市近郊のみならず、農村部にも高層アパートが建築される状況にあるのとは好対照にあるといえよう。マルク・ブロックの存在を考えれば、現代に連なる中世農村史研究の基点はフランス・アルザス地方にあると言っても過言ではないが、その象徴的な存在としてあげられるのがウンガースハイム(Ungersheim)に存在するエコミュゼ(Ecomusee)である。文字通り訳せば、「環境博物館」であるが、その中心には中世の城郭が復元されている。この城には望楼があり、大きな小屋組みがあって、フランク王国期を模したものかと思われる。大きな池を望むかたちでこの城があり、その周囲には移築された民家が並び、さらに麦畑・ブドウ畑が続く。大型機械もあるが、牛や馬、そして豚も飼われている。多くのボランティアにより維持されているのである。ただし、一般の村に見られるような教会は存在せず、濃厚な宗教色はここには存在しない。アルザス地方の伝統的な都市や農村をめぐってきたものの眼にはかえって不思議な空間にも見えてくるのである。復元民家は展示室になっているものもあり、様々な民族衣装や生活着などが展示されている。エコミュゼは、歴史性はあるが、宗教性は排除されており、最近の日本の博物館における前近代展示のコンセプトとも相違する。農業労働、鍛冶職人、竹細工的な工芸職人の技は実演されているので、これらを見せることがエコミュゼの主要な基本理念といえるのであろう?。ムラの再生に向けて明治維新以降、日本中世のムラに対する研究は、ヨーロッパ中世の農村との比較研究によって深められた。1970年代、経済の高度成長が進むなか、ムラの危機が明らかにされ、その対応が考えられたが、調査の進展はあったものの効果的な方策は見出されなかった。1990年代になり、世界的な伝統農業と村落生活見直しのなかで、日本においても政策的な取り組みが行われ、2000年代に入ってから文化財保護法の改正も行われ、ムラの景観に対する保全の方向性も明らかにされた。それらは、住民と地方自治体の意向を尊重するもので、中世からのムラの伝統が守られているともいえるが、世界に発信するインパクトは必ずしも強いとは言えない。これに対して、中国やインドネシアでは、近年に至って、それぞれの歴史的背景を踏まえてモデルとなるムラの保全・再生を図っている。研究については長い伝統を有する日本もこの点でアジア諸国に学ぶべきも77