ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
WASEDA RILAS JOURNAL田染小崎における田植え(2013年6月撮影)のがある。なお、日本がヨーロッパ農村史を学んだ原点であるアルザス地方では景観保全そのものは一般の村落と選定された都市に任せ?、保全の拠点となるエコミュゼでは伝統技術の継承が中心となっている点が興味深い。重要文化的景観である田染小崎の地では、毎年4月に「荘園領主」という名のオーナーを募集し、約170組を受け入れている。選定地の一角に中核施設「ほたるの館」があり、田植え祭と収穫祭には荘園ある。活動の規模はエコミュゼの方がはるかに大きく、実践で大幅にリードしていると言える。本稿では中国の徹底したムラ管理にも触れた。ここでは牛は飼育せず、馬の輸送力を最大限に活用するというものであった。日本の場合、上の写真にもあるとおり、牛馬農耕にはほど遠い環境にある。アジアは非常な勢いで都市化が進行しているが、ヨーロッパから再びムラを学ばねばならない日がくるのではないだろうか。領主の家族や大学生・留学生が集まり、賑やかなイベントが行われる。この小崎の地を「エコ・サイトミュージアム」と呼んでいる?。アルザスのエコミュゼと比較すると、中世の歴史性を重視しており、宗教的な雰囲気をあまり持ち込まないという点でも共通性がある。しかし、相違点も目につく。まず水田農耕社会と麦・ブドウ栽培の差である。水田であれば、その歳時暦のなかで田植えイベントを大きく取り扱うことが出来る。自然に対する儀礼として田植えの持つ意味は大きいと言えよう。また、歴史性において12世から13世紀における有力農民の活動が具体的に証明出来ることも大きい。詳細な歴史を知りうるという点では小崎が上であろう。そこには水田農耕の有するサスティナビリティが含まれる。一方、アルザスのエコミュゼが優れている点は、多くのボランティアがそこで働き、牛、馬による農耕が実際におこなわれていることで注?「ムラ」の語義は概ね大山喬平氏の理解に従うが、本論ではとりわけ景観的なまとまりとサスティナビリティを重視する。? 1938年に東京帝国大学農学部講師となった古島敏雄氏(1912~1995)は、日本農業史に大きな貢献をし、近世を中心に農村の実態を明らかにするとともに、全時代を考察の対象とした『土地に刻まれた歴史』(岩波書店、1967年)などの名著がある。ただし、近世史の研究者は史料分析とその保存に注意を傾注し、景観の保全には関心を向けるものは少数であった。?明治期の日本において、史学史的に大きな影響を与えたのはベルリン大学の教授であったレオポルト・フォン・ランケ(1795~1886)の実証主義的歴史学である。1945年まで東京帝国大学をはじめとする日本の歴史学界において古文書学が重視されたのもその直接的な影響であったと言える。このころ日本において荘園制研究は進展したものの、そこからは「ムラ」の感覚はあまり読み取れない。しかし、1945年以降になると日本の研究者の眼がアナ─ル学派に及ぶようになり、「ムラ」に対する関心も78