ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALようになった。しかし、誰が翻訳したかというと、学者ではないんです。アメリカの場合は翻訳者というのは、虫みたいなもので、できればつぶしたいというような存在なのです。だいたいお金にならないし、大学に籍を置きながら翻訳するのが普通です。村上春樹、そして吉本ばななの場合は違います。学者ではなくて、大学に籍を置いていない人が村上春樹を翻訳したんです。それで学問の世界がガラッと変わりました。今、先ほどスーターさんの本の話がありましたけれども、村上春樹に関する論文がたくさん英語で書かれています。そういう意味で、今、アジアが抜け落ちているという視点もあると思いますが、少なくともアメリカにおける村上春樹の需要というのは、もともと大衆文学に対して、もっと大衆的な文学のその構造をカーッと倒したというところがあると思うんですよね。評価とかそういうのとはちょっと違います。先ほどの最初の話に戻るのですが、「源氏」の話もでてきましたが、1939年に谷崎潤一郎が『源氏物語』の現代語訳を出版しました。当然戦時中で、『源氏物語』の中に戦時中だと問題になるようなところがあるんです。要するに、光源氏という人は、自分のお父さんである天皇の奥さん、藤壷という人と不倫を犯して、子どもが生まれるんですよね。その子どもが天皇になるわけですが、これは大変なことです。戦時中、これは絶対言っちゃいけないことです。だから谷崎がどうしたかというと、谷崎ともう1人が頑張って、そういう非常にあってはならないところを全部削るのです。でも、谷崎がその現代語訳を出版するときに、序文に現代においてはいささか不適切と思われるようなところがありましたので、そこをすっかり100パーセント、全部抹殺しました。しかし、別に関係ないから心配しないでください、というようなことを言っているのです。どうしてこの話をしたかというと、何かが抜け落ちている、何かが抹殺されているということは2つの意味を持っていると思うんです。1つはないということで、1つはすごく重要だということです。何かが抜け落ちているということは逆に、特に村上春樹の場合は、最初からアジアが抜け落ちているということを意識させるために、ちょっとだけアジアを入れるというようなところがあると思います。だから逆に言えば、村上春樹という作家には、ずっとアジアというものが幽霊のようにつきまとっているという見方ができるのではないかという気がします。あと、女性に対する、在日韓国人に対する見方というのもあります。不思議な女性というのが出てきましたよね。女性に対しても同じことが言えると思います。幽霊のように、不思議な女性がずっと村上春樹につきまとっているという。ちょっと長い答えになってしまいましたが。施:翻訳における削除や、あるいは、省略といいますか、エメリック先生の話に出ていましたので、ちょっと質問があります。先ほどのご講演の中でも、村上春樹の翻訳においては同じような現象があるとおっしゃいましたね。つまり、英訳の場合に、一部カットされたと。それは何を意味するか。意図的にそうしたのか。20,000字ぐらいですか?エメリック:25,000語です。出版社が確か、『ねじまき鳥クロニクル』という本は結構長いので、短くしてくださいと言って、これ以上長くなると私たちは出版しないという条件を契約に盛り込んだという話です。だから、翻訳を担当したジェイ・ルービンは、最初は完訳を準備して、自分で短くすると決めたのです。そして、これが結構面白いんですけれども、英訳のコピーライトページを見ると、だいたいこの本が作者と協力して改編されたものですと書いているんです。だから村上春樹自身が、英語を読んで「大丈夫ですね、これでいいんです」と言ったのです。『ねじまき鳥クロニクル』の場合は、文庫本においては英訳のカットを一部反映させています。だから、文庫本が言ってみれば、英訳を参照しながら作り直されたものですね。尹:村上春樹のアジア性のことは、先ほど加藤さん、それからエメリックさんのお話で、コミットメントでもあるという積極的な読み方もあろうかな、と思います。それからまた、アジア幽霊論、それもあり得る話だとは思います。しかし、今日、僕はもともと村上春樹について、アジア性を中心に話すつもりはなかったんですが、ただ、村上春樹ご自身が「東アジア文化圏」という言葉を言い出し、また、その朝日新聞に書いたエッセー200