ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

ページ
102/542

このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている102ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALIはじめに早稲田大学の會津八一記念博物館は、2014年5月から6月にかけて荒川修作(1936-2010)の展覧会を開催した(1) (図1)。荒川修作は生前に、早稲田大学を何度か訪れ講演をしており、展覧会の開催もそうした荒川と本校との縁による。展覧会では、早稲田大学において荒川と実際に交流のあった塚原史館長や古谷誠章理工学術院教授をはじめとする文章によるカタログが刊行され、筆者もその折に寄稿する機会を得た(2)。その後、文学学術院が、韓国、中国、台湾の5大学の間で行っている東アジア人文学フォーラムがソウルの漢陽大学で開催され、筆者はその際、大学博物館の活動を紹介しつつ、さらに荒川についてとりあげ発表した(2014月11月1日)。(図1)『荒川修作の軌跡―天命反転、その先へ』展図録フォーラムの今回のテーマは「21世紀の人文学」と広い領域をカバーするものであることからもわかるように、ここでは「人文学」といっても、研究対象は文学、思想、表象文化など分野も地域も時代も多様であるだけでなく、またその研究背景も異なる環境にある人びとの集まる学会であるため、参加者の多くに関心をもたらす研究テーマを見出すのはなかなか難しい。しかし、東アジアの研究者たちが「21世紀」を考えることを念頭におくと、筆者にとっては、荒川ほどふさわしいアーティストはないように思われた。日本(東洋)とアメリカ(西洋)を往来しつつ形成された荒川の芸術とその言説は、未来の新たな価値の創造という意味において、少なからぬ示唆を含んでいるからである。荒川研究の第一人者である工藤順一はその著書で、荒川(および彼のパートナーのマドリン・ギンズ)による試みを次のようにまとめている。「はっきりと言えることは、だれにも感じられているように、世界中でそしてあらゆる分野で、近代とその諸価値が行き詰ってしまっていることだ。(中略)それにとって代わる新しい価値観と体系の樹立を彼らは主張しているのである。それは〈近代〉とか〈一元化システム〉とか〈グローバリゼーション〉とか、何と呼んでもよいがすでに『特殊西欧的な偏見あるいは普遍』として確立されている地平線にとって代わる、新しいもうひとつの覚醒の地平線である」(3)。フォーラムの開催された2014年の春から夏にかけて、ソウルでは近年の欧米における日本の戦後美術への高い関心を受けてか、芸術の殿堂において草間彌生の展覧会が開かれ、かなりの盛況を誇っていた。このように欧米の動向に敏感なアジア各国において、日本の戦後アーティストは次第に紹介されていくことになるだろうが、美術史の専門学会でもないフォーラムでは、荒川修作を知る研究者はいないようであった。そのため、短い発表時間では、作品の概要を紹介することが中心となったが、それでも、彼の「死なないためNot to Die」の思想に多くの研究者の人びとが関心を抱き、質問や意見も多くいただいた。本論は、ここでの発表において行った内容をさらに展開させ、荒川の永続的テーマである「死なないため」とは何かを、具体的作品のなかから考察するものである。II荒川修作における造形作品の展開ー平面から立体へ荒川は美術家として出発したものの、晩年には主として建築や都市計画へとその興味を移し、自らを画家でもアーティストでもなく、「建築家」あるいは、「コーデノロジストcoordinologist」と称していた。「コーデノロジスト」とはすなわち、「芸術、哲学、科学の総合に何か実践する人」という意味である(4)。その思想をあたためた著作も多い。彼の主張は自ら定義したように、哲学や科学に深くかかわるため、哲学者、文学者、科学者などの視点から、これ100