ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALらの作品を前に思い浮かべるのは、バウハウスのオスカー・シュレンマーである。シュレンマーは3組みバレエなど、どちらかといえば舞踊や演劇といったパフォーマンス作品で知られる作家だが、初期の絵画やドローイングにおいて、人間と空間における関係性を明示した興味深い作品を残している(9)。身体と環境との関係性を示唆している意味で、荒川とシュレンマーには共通点が見出せるだろう。荒川の図式絵画の連作は、絵画という2次元の平面の作品でありながら、内容的には謎のエネルギーのようなものが空間を満たすイメージによって、3次元性を意味した作品となっており、人間と環境、身体と空間といったものへの興味をかい間見せている。(3)『意味のメカニズム』『図式絵画』においては、矢印や円、線などで構成される図形とともに簡単な英単語が時おり画面に登場し、「言葉とイメージ」の問題が扱われていたが、次の連作『意味のメカニズム』においては、さらなる展開をみせる。この連作は1970年ヴェネツィア・ビエンナーレで公開され、その後ヨーロッパを巡回した。全作品については、1971年ドイツの出版社から出版された同名の著作に掲載されている(10)。『意味のメカニズム』とは、「イメージ」と「文字」を画面上に共に示すことで、文字通り「イメージ」と「言葉」の間で起こる表象のメカニズムを示した作品群である。図像としては、荒川の尊敬するレオナルドやティントレットの作品が引用されている。またテクストや単語としては、簡易な英語によるものが使われている。西洋美術史上有名な図像の引用、英語によるテクストといった要素は、もちろん、パートナーのマドリン・ギンズとの共作が一要因としてあるが、荒川が国際的な活動を視野に、とりわけ、西洋の観者を意図して作品を制作していることを示している。具体的作例として、《3、曖昧な区域の提示》に示された一作品(11)を見てみよう。レモンを題材としたこの作品ではレモンの形をした図形のなかに、「ACTUAL LEMON(現実のレモン)」と文字が書かれている。その上方には、「THIS IS ALEMON(これはレモンです)」と書かれたプレートがある。さらにその上方には、レモンの形の図形のなかに、「MODEL OF A LEMON(レモンのモデル)」と書かれたもの、「DRAWING OF ALEMON(レモンの素描)」と書かれたものが続き、すなわち、レモンの実態とイメージについてさまざまな状態が描かれている。ほかにも「PAINTINGOF A LEMON(レモンの絵)」や「IMAGE OF ALEMON(レモンのイメージ)」、「MEMORY OF ALEMON(レモンの記憶)」、「AREA OF A LEMON(レモンの領域)」、「ILLUSION OF A LEMON(レモンの幻影)」、「PHOTO OF A LEMON (レモンの写真)」、「REFLECTION OF A LEMON(レモンの反映)」、「IMPRESSION OF A LEMON(レモンの印象)」などと書かれたものがある。このように、図形と言葉を並べ、実態と意味がいかに関係し生成されていくか、そしてそれらがいかに曖昧であるかがここでは示されているのである。次に《8、再集合》と呼ばれる作品群の一点で、ABCを図式化した作品を見てみよう。再集合とは、世界を構成する要素を、一度解体してふたたび集めることによって、別の意味を生み出すことを示唆している。この作品にはその意味が具体的に示されている。ここでは、A + B = Cの式が繰り返し並べられている。よく見ると、Aはすべて赤、Bはすべて青で同じ色をしている。だが、両者を足した結果のCはすべて異なる色をみせている。つまり、「+(プラス)」と「=(イコール)」の変化で、結果が異なる、ということだ。ここでは数式だけではわかりえないもの、数字だけではすべてをはかりしれない世界が示されている(12)。このように、私たちが普段、すっかり当たり前だと思い込んでいる世界をもう一度見つめ直し、構成し直すことへの問いかけが、この『意味のメカニズム』における作品群には一貫して見出せる。2立体作品への展開-奈義の『龍安寺』、養老の『天命反転地』とその後荒川はその後、パネルとインスタレーションを組み合わせた作品などを発表するが、1990年代になると、大胆な転換をみせる。それは、空間全体をデザインする建築的作品への展開である。(1)奈義町の『龍安寺』1994年、日本の岡山県、奈義町に建築された現代美術館がある。この美術館は国際的に活躍する4人の日本人芸術家に、大規模な作品を構想の段階か102