ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

オディゴン修道院の聖人暦(総は4/27)。・8/1総はHagioi Makkabaioi、〔F〕は左に加えて、Solomone、Eleazarosを祝う。・8/24総はBartholomaios, Eutyches, Memnon-Seueros-Tatianos、〔K〕はBartholomaiosに加えてBeros。取り始めたが、12写本を見る限りオディゴン修道院固有の暦というよりは、他の(首都以外の?)聖堂・修道院で使用するための注文であった可能性が高い(24)。オディゴン修道院には、宮廷をはじめとして、多くの写本制作の発注があり、注文に応じて聖人暦も変更が加えられたのかもしれない。さらなるデータの蒐集が必要である。3聖堂献堂(エンゲニア)聖人暦のいまひとつの重要な側面は聖堂献堂(エンゲニア〔希〕?γκα?νια〔羅〕encainia)の記述である。言及される特定の聖堂が、写本の出自と直接に関わる場合がある。たとえば、1334/45年の年記をもつ大英図書館のレクショナリー(Add.19993)においては、11/3に聖ゲオルギオス(聖堂/修道院)の聖堂献堂の記載が見られる(22)。この記事は写本がその聖堂ないし修道院のために制作されたこコロフォンとを示すものである。ビザンティン写本は奥付がないものが大半であるが、聖堂献堂の記事は奥付がなくとも写本が使用された場所を示す重要な史料となりうる。出自の記載のない写本について、これまで挿絵の質の高さから、漠然と「首都制作」と考えられてきた。しかし聖人暦中に、首都にかかわる典礼の記述が多数記されていれば、その写本は確実に首都に帰属し、首都のパトロンのために制作されたことの客観的な証拠となりうる。本稿で取り上げたオディゴン修道院制作の12写本は、聖堂献堂の記事も、首都で執り行われる典礼の指定もきわめて少なかった。総主教座本は計11日において、聖堂献堂を祝っている(23)。うちエルサレムのキリスト復活聖堂(9/13)は、Lavra A 46、Vatopedi 16、Lavra A 62が、Chalkoprateiaの聖母聖堂への聖母の腰帯安置と献堂(8/31)は12写本が採用している。しかしその他の9つの献堂についての記述は見られない。また、首都コンスタンティノポリスにかかわる典礼の記述については、コンスタンティノポリスの献都(5/11)と、Kamposでの式典(6/5)をNat. Bbl. 1905が採用し、ブラケルネにおける聖母の衣安置(7/2)については全12写本が記載しているにすぎない。ある工房において制作されるレクショナリーには同一の聖人暦が採用されているのではないかとの想定のもと、オディゴン修道院制作の聖人暦データをおわりに本稿で取り上げた12写本のみから結論めいたことをいうのは困難ではあるが、聖人暦研究のさらなる可能性に触れて本稿をしめくくる。『パルマ福音書』(11世紀後半、パルマ、パラティーナ図書館)(25)は、多数の豪華な挿絵を有する中期ビザンティン時代を代表する四福音書の1冊である。奥付はなく、出自については不明である。当写本はレクショナリー的な性格も併せもつ福音書で、本文中に祭日の註記が記され、巻末には聖人暦が収録される。この聖人暦がオディゴン修道院の写字生ヨアサフのサインを有するOxford, Bodleian, Auct. T. infra 1.10(S.C.28118)の聖人暦と同一であることはきわめて興味深い。写本研究の片翼である聖人暦の分析と挿絵の図像学的研究を携えて、『パルマ福音書』の出自に迫ることはできるだろうか。今後さらにデータを集積した上で、リセンションの確定も試みたい。注(1)“Lectionary,”ODB, p.1201.(2)聖人暦研究については下記参照。益田朋幸「天理図書館所蔵のビザンティン・レクショナリーについて」『ビブリア』(天理図書館)103(1995)pp.198-75;「ビザンティン・レクショナリー写本研究の諸問題」『ビブリア』105(1996)pp.232-06;「イワン・ドゥイチェフ研究所(ブルガリア)のビザンティン・レクショナリー」『女子美術大学研究紀要』31(2001)pp.1-10;「中期ビザンティン・レクショナリー写本の挿絵研究序説」『早稲田大学大学院文学研究科紀要』50-3(2005)pp.51-61;「中期ビザンティン挿絵入りレクショナリーの聖者暦」(海老原梨江と共同執筆)『地中海研究所紀要』3(2005)pp.83-9;「コンスタンティノポリス総主教座のレクショナリーCod.Paris.gr.286」(櫻井夕里子と共同執筆)『岡山市立オリエント美術館研究紀要』22(2008)pp.91-118;「レクショナリー写本の聖者暦」『地中海研究所紀要』6(2008)pp.135-117