ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

影の下の家―夏目漱石『門』と意識の流れ―る。『門』の結末で宗助が座禅をして救いを求めるが、それも失敗に終わる。あくまでも彼に対して門は開かない。しかし、それなのに宗助が恐れている危機は結局来なかった。安井と酒井の弟は東京を訪れても、特にそれで宗助と御米の過去の罪が問われることにはならなかった。小説が閉じるところでは、また宗助と御米の単調な日常生活が流れはじまりつつある。「御米は障子の硝子に映る麗かな日影をすかして見て、『本当に難有いわね。漸くの事春になって』と云って、晴れ晴れしい眉を張った。宗助は縁に出て長く延びた爪を剪りながら、『うん、然し又じき冬になるよ』と答えて、下を向いたまま鋏を動かしていた。」(二三)ここで御米には、時間の流れがまた動き出したように見える。しかし宗助にはそれはまだ流れ始めてはいない。やはりこの文章にも「影」が出る。御米の目を刺激するこの「日影」は「うららか」で、光に満たされている意識の焦点Fになっている。しかし、宗助の意識にはそれはまだ暗い冬、言い換えれば光のないところのfに当たるであろう。「影」の呪いから脱出できないままこの小説は終わる。注(1)石原千秋(1999)『漱石の記号学』講談社、71-92頁。(2)前田愛「山の手の奥」、『都市空間のなかの文学』(1982)筑摩書房。(3)漱石のテクストの引用は『漱石全集』(1995-1999)岩波書店によるもので、引用文の振り仮名を省いた。旧仮名遣いは現代仮名遣いに直した。(4) S?seki Natsume, Mon, trans. Francis Mathy(Tokyo: Tuttle, 1972), 34.(5)以前にもこれらの問題を触れている拙論があり、内容は本論文と重なるところがある。「英語圏における『文学論』――理論・化学・所有」『国文学』(2006年3月号)、及び「寄与としてのステッキ・夏目漱石『彼岸過迄』の社会学」『日本文芸論叢』15 (2002)を参照。(6)小創脩三(1989)『夏目漱石・ウィリアム・ジェームズ受容の周辺』有精堂、及び宮本盛太郎・関静雄(2000)『夏目漱石・思想の比較と未知の探究』ミネルヴァ書房を参照。(7) Thomas LaMarre,“Expanded Empiricism:Natsume S?seki with William James,”JapanForum 20:1 (2008), 47-77及びKurt Danziger,Constructing the Subject: Historical Origins ofPsychological Research (Cambridge: CambridgeUniversity Press, 1990)を参照。(8) Cyril Burt,“Frances Galton and hisContributions to Psychology,”The British Journalof Statistical Psychology 15:1 (May 1962), 1-49.ボーダッシュ訳。(9) Wilhelm Wundt, Principles of PhysiologicalPsychology, trans. Edward Bradford Titchener(London: Swan Sonnenschein, 1904), 2.ボーダッシュ訳。Kurt Danziger, Constructing the Subject同上を参照。(10) William Lyons, The Disappearance ofIntrospection (Cambridge: MIT Press, 1986)を参照。(11) Wilhelm Wundt, Principles of PhysiologicalPsychology同上1頁。(12) LaMarre,“Expanded Empiricism,”注7参照。(13)漱石における「意識」概念の構造については、増満圭子(2004)『夏目漱石論・漱石文学における「意識」』和泉書院に詳しい。(14)篠田浩一郎(1982)『小?はいかに書かれたか・「破戒」から「死霊」まで』岩波書店、35-36頁。(15)小森陽一(1995)『漱石を読みなおす』筑摩書房、107頁。(16) C・B・マクファーソン藤野渉ほか訳(1980)『所有的個人主義の政治理論』合同出版。(17) Walter Benn Michaels, The Gold Standard andthe Logic of Naturalism (Berkeley: University ofCalifornia Press, 1987)を参照。(18) William James, Principles of Psychology, Vol.1(London: Macmillan, 1901), 337-339.ボーダッシュ訳、以下同様。(19)石原千秋『漱石の記号学』77頁、注1を参照。19