ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALている可能性も考慮しながら、1古墳1古墳を精度の高い測量や発掘によって精密に分析する姿勢が重要なのではないか、と考える。最後に、50号墳と浅間山古墳の比較を行い、本調査の総括とする。まず、浅間山古墳の報告書では、墳丘長77.6m・後円部径52m・前方部幅58m・くびれ部幅37m・後円部の高さ6.7m・前方部の高さ7mの復原値が示されている。三段築成とされるが、1~2段目のテラスについては、図面に提示されている復原線に基づいて円弧を描くと、後円部の南北で対応関係が矛盾する。また、テラスと横穴式石室の関係も報告書の記載・図面では十分に把握することが難しい。浅間山古墳は後世の改変が著しいため、平坦面を誤認しているかもしれず、2段築成の可能性も捨てずに再考する必要があると考える。また、2トレンチは後世の撹乱が激しかったため、主にレーダーの成果から前方後円形の周溝が復原されている。しかし、西側周辺の地形に見られる等高線は、かなり明確な盾形を呈しており、この点も確定は難しい。以上の状況からすると、現状で50号墳と精度の高い比較をすることは難しいものの、外形に関しては共通性が高い点が指摘できる。50号墳と浅間山古墳については、甘粕がBC:CP:PD:くびれ部型で、浅間山(6:1:2.5:7)、50号墳(6:0:3:8)の比率を示している。一方、萩原恭一は後円部12等分値で墳丘長:後円部径:前方部幅:前方部長を、浅間山(18:12:13.5:6)、50号墳(17.5:12:12.25:5.5)の比率を示した。これらの数字による限り、両古墳は極めて近い外形を有することになる。図14上には、浅間山古墳と50号墳を比較するため、前者を1200分の1、後者を600分の1にした図面を提示した。千葉県横芝光町の殿塚・姫塚古墳の調査では、墳丘長において3:2の関係性が認められたため(城倉ほか2014)、前方後円墳の墳丘長に格差が明示された可能性が高いと考えるが、浅間山古墳と50号墳は2:1に近い比率が認められる。前述した歩数で言えば、50号墳は24歩、浅間山古墳は44歩(= 77.66m)が計測値に近い。なお、両古墳には墳丘片側が斜面地となる地形条件や、南側くびれ部の後円部寄りテラス下層(つまり下段)に埋葬施設を構築する点も共通する。CPの比率も現状の復原からは酷似するため、甘粕が想定したように墳丘から前後関係を決定するのは難しい。57号墳・70号墳など外形が近く、埴輪を樹立する古墳との比較が必要だが、現状では50号墳と浅間山古墳が埴輪樹立終焉後の近い時期に、極めて共通性の高い規格で構築されていると考える。以上、本調査では、1964年に発表された甘粕の優れた研究をほぼ追認することになった。今回、GIS・GPRを用いた非破壊調査によって、墳丘の本来の形を推定したわけだが、尺度など推論に推論を重ねた部分もあり、墳丘研究の難しさを改めて感じた。墳丘の設計を論じるには、大型で残りの良い古墳をデジタル測量など定量的に分析しなければならないのはもちろんだが、発掘された中小規模墳を対象として設計と実際の施工の乖離を埋める分析が必要である。それには、地域社会における同系統の古墳に関して、高い精度のデジタル測量や発掘を蓄積し、比較していかなければならない。測量や発掘調査の精度を常に高めつつ、1基1基の古墳の復原を積み重ねていくことこそが、迂遠に見えても、前方後円墳の設計原理を読み解くための最も近道だと考える。おわりに(城倉)本稿は、高梨学術奨励基金を受けて実施した龍角寺50号墳のデジタル測量・GPR調査の成果である。早稲田大学文学部考古学コースでは、千葉県の古代印波および武射の地域をフィールドとして、デジタル非破壊調査や発掘、遺物の整理を進めている。今後も基礎作業を進め、古墳時代~古代の地域社会のダイナミックな変容過程を広い視野で歴史的に位置付けていきたいと考えている。なお、本稿では甘粕健と新納泉の前方後円墳の墳丘に関する優れた研究に大きな影響を受けて、議論を進めてきたが、最後に第1節で設定した4つの課題の結果を整理してまとめとしたい。①~③50号墳のデジタル測量を行い、GISを用いた平面形・立面形の精度の高い復原を行うことができた。また、GPR調査によって、埋葬施設の位置と構造を推定した。なお、50号墳の墳丘の分析では、歩による設計の基本単位が存在する可能性を考えた。④50号墳と浅間山古墳の比較によって、両者の外形に極めて高い共通性が認められる点を再確認した。今後は龍角寺21・57・70号、および浅間山古236