ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL法である。歴史学では、史料そのものをそこに事実が素朴に表現されていくテクストとして読むのではなく、あくまでもその史料を一つのテクストとして、その背後にある意図や論理に注目しつつ事実とは切り離されたテクストとして読み、その上で事実が何かを批判的に推定していく史料批判の方法を生んだ(西洋史の分野では「史料の動態論的研究」などと称される)。「言語論的転回」以降、人文学はますます定義が不明瞭になり、たんなる言説の空間にただよう実体のない学問ではないかという議論も起こった。歴史学では、カルロ・ギンズブルクのヘイデン・ホワイト(3)への批判は今でも記憶に新しい。表象の歴史学と歴史学の倫理性との間にはいまだに解決できない問題がある(4)。2.人文学の危機と歴史学ー「ヨーロッパ中心史観」から「グローバル・ヒストリー」へ最近になり、「人文学の危機」と呼応するかのように、再び歴史学研究でも大きな歴史認識の枠組みを問う議論が生じている。その背景には、世界で同時並行的に生じているグロバール化という事態があるのはいうまでもない。現在、歴史学のみならず人文学の枠組みの組み直しが求められている背景には、グローバル化により世界的規模での人類の共生が重要な課題となっているという現実があろう。現代世界では、ことなる民族やことなる宗教の間での対話や共存がますます求められており、そうした現状に適合した新しい人文学が必要とされている。たとえば歴史学では、これまでの「ヨーロッパ中心史観」の世界史ではない人類が共有できる世界史を描くことが要請されている。現在、日本で書かれる世界史の書物では、意識的にヨーロッパ中心ではない視点から叙述するものが多くなった。昨今の歴史学では、西洋史と東洋史との地理区分に対する見直しが進み、ユーラシア大陸の相互交流のなかから世界史を諸文明圏の交流として描こうとする試みもなされている。とくにモンゴル帝国やイスラーム諸国などこれまでは東洋史に分類されていた地域の歴史をヨーロッパ史との関係の中で捉え直そうとする研究も目立つようになった(5)。現在このような状況のなか、世界史の教科書の新たな書き換えの提言もなされている。それはたとえば、羽田正氏が提唱した「世界市民」のための新しい世界史という議論で多くの研究者が知る所になっている(6)。私自身が新しい「グローバル・ヒストリー」の試みとして、最近とくに注目するのは、近世キリスト教の東アジア布教の研究である。東アジアは16世紀半ばから17世紀半ばにスペイン・ポルトガルからの影響(イベリア・インパクト)のもとでヨーロッパの文明と接触し近代への道を歩むことになったが、キリシタンや南蛮文化の時代に東アジアがどのように西欧のキリスト教や人文学を受け入れたのかについては、いまだ十分に解明されていない問題が多くある。我々の「グループ1」では内外の研究者を招聘して、こうしたヨーロッパと東アジアの文化の接続の問題を解明したいと考えている(7)。3.日本と東アジアにおける人文学の形成とそのイデオロギー性現在、日本と東アジアでこれまで通用してきた人文学が危機にあり、新たな人文学の創出、あるいは既存の人文学の組み直しが求められるとすれば、そのためにも、日本がヨーロッパ文明と遭遇して以来、どのように人文学の学問が形成されたのかを問い、同時に、近代日本の人文学が形成された際の背景やそのイデオロギー性も検討する必要があろう。また、日本で構築された人文学が韓国や中国の近代的人文学の形成にいかなる影響を与えたのかも考える必要がある。我々の「グループ1」では、そうした問題意識に立ち、研究テーマとして、「日本と東アジアにおける近代歴史学の形成とそのイデオロギー性」と「日本と東アジアにおける「文学」概念の成立と西洋文学受容の問題点」を掲げている。近代歴史学の形成過程に関して、我々が考察したい問題点は以下3点ある。(1)ヨーロッパの歴史学が日本でどのように受容され、それがいかにヨーロッパ中心主義的な世界史認識の形成に寄与したか、またそのような日本の近代歴史学が韓国、中国にどのような影響を与えたか。(2)日本の近代歴史学は、東アジア史を中国史としてではなく東洋史の一部として考察する歴史認識を生んだ。東洋史学がいかにして誕生し、それとともに成立した国史、東洋史、西洋史という世界史区分はどのようなイデオロギー性を持っていたのか(8)。(3)戦後歴史学が前提としてきた東洋と西洋の地域区分、古代、中世、近代の時代区分、一国史観を再検討し、ユーラシア242