ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

シンポジウム「新しい人文学の地平を求めてーヨーロッパの学知と東アジアの人文学ー」趣旨説明世界についても新しい歴史像を提言する必要があろう。「文学」概念の成立に関しては次の問題が考えられる。(1)東アジアの伝統的な「文」の概念がどのように近代以降隠蔽されたのか、また東アジアで「文」の概念がいかなる文化的意味を保持していたのか。(2)日本での西洋文学受容とその人文学への影響、日本における西洋的「文学」概念の成立がいかなるものだったのか。終わりにー「スキエンティア」と「フマニタス」研究人文学のあり方を考える際に、変わらない普遍的な問いがある。それは、安酸先生が指摘する「スキエンティア」と「フマニタス研究」の関係の問題であろう。我々の人文学が影響を受けた西洋の人文学の伝統は、もとをただせば古代ギリシャ・ローマの自由学芸まで行き着く。古代の自由学芸がスキルとしての学知ではなく人間が自由人であるために身につける教養だったことはいまさらいうまでもない。自由学芸の伝統は中世ヨーロッパでも受け継がれたが、専門知としての「スキエンティア」が発達すると、学知は人間性の完成を目指す「フマニタス研究」の理想と乖離するようになる。ルネサンスの「フマニタス研究」が中世とはことなる、新たな神と人間との関係を構築する試みを創造し、宗教改革を生んだように、ヨーロッパの学知の伝統ではつねに硬直した「スキエンティア」を破壊する「フマニタス研究」への回帰がある。「フマニタス研究」は、学知を組み直す全体的な視点を提供し、学知を人間の生に根差した関心から問い直す試みともいえる。その視点は、安酸先生が報告の結論として述べる、ベークのいう「認識されたものの認識」の定式であり、あるいはカッシーラーのいう「シンボルを操るもの」としての人間把握の理解でもあろう。新しい人文学を考えるにあたり、こうした「フマニタス研究」の視点がいま再び必要なのではないだろうか。注(1)「グループ1」は、サブ・グループとして次の3つの研究班に分かれている。A班「ヨーロッパの学知が近代日本と東アジアの人文学の形成に与えた影響」、B班「日本と東アジアにおける近代歴史学の形成とそのイデオロギー性」、C班「日本と東アジアにおける「文学」概念の成立と西洋文学受容の問題点」。A班は「西欧文明の東アジア世界への接続」を共通テーマに掲げ、歴史学、文学などの様々な分野の報告を行い、学際的な共同研究を遂行する。B班は「ユーラシア歴史世界の再構成」を共通テーマに掲げ、歴史学とくに西洋史と東洋史の分野の研究者が報告を行う。A班とB班の研究会は、早稲田大学総合研究機構のプロジェクト研究所「ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所」(所長、甚野尚志)の活動および科研・基盤(A)「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視角」(代表、甚野尚志)の活動と連携し研究を行う。C班は「東アジア世界における「文」の伝統と変容」を研究会のテーマに掲げ、日本文学および外国文学の研究者が主体となり報告を行う。C班の研究会は、早稲田大学総合研究機構のプロジェクト研究所「日本古典籍研究所」(所長、河野貴美子)の活動と連携して研究を遂行する。また3つの班の合同での研究会も定期的に開催する予定である。(2)安酸敏眞『人文学概論-新しい人文学の地平を求めて』(知泉書館、2014年)(3)ヘイデン・ホワイトの主著『メタヒストリー』(HaydenWhite, Metahistory, The Historical Imagination inNineteenth-Century Europe, 1973)は、歴史叙述の「言語論的転回」による分析の古典的書物であるが未邦訳。カルロ・ギンズブルク(上村忠男ほか訳)『裁判官と歴史家』(平凡社、1992年)は、歴史学の倫理性を考える意味で示唆するところが多い。(4)表象の歴史学の限界と歴史学の本質の問いについては、遅塚忠躬『史学概論』(東大出版会、2010年)がきわめて誠実に議論している。この著書の冒頭で、遅塚氏は「歴史学は、すでにできあがった知の体系ではなく、躍動し変貌し続ける生き物である。それは、新たな領域を開拓し、従来とは違った観点から対象を見なおし、また、新たな方法を編み出したり隣接諸科学から借用したりしながら、日々にその相貌を変えつつある」と述べているが、「すでにできあがった知の体系ではなく、躍動し変貌し続ける生き物」という比喩は、歴史学だけでなく人文学の本質を言い当てている。(5)水島司編『グローバル・ヒストリーの挑戦』(山川出版社、2008年)が、我が国の最近の「グローバル・ヒストリー」研究の動向を手際よく俯瞰している。(6)羽田正『新しい世界史へ』(岩波新書、2011年)。羽田氏のこの書物は「ヨーロッパ中心主義」を図式化、単純化243