ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

エックハルトにおける形相(forma)の理解-義(iustitia)と義なる者(iustus)との関係をめぐって-ゆえに甘美だということを、エックハルトは主張しその際に注目すべきことは、働くもののすべての働きは、その働きを受けるものに何らかの力が賦与され、刻印されて、いわばその形相としてその働くもの自身に内在する力になることによって、その働きを受けるものが[その働くものと]ともに働くようになるまでは、その働きを受けるもの自身にとっては、重荷であって厄介なものにすぎないことである。…(中略)…そして働くものが[働きを受けるものに]刻印するものが、その働きを受けるものにとってより内奥のものになって、その働きを受けるものの形相となればなるほど、その働きを受けるものはより甘美な仕方で整えられ、動かされる。そしてこれゆえにこそ、暴力的な運動は最後には衰えてしまうが、本性的運動は最後には増大する。というのは、本性は事物のうちに住む力だからである。(12)前節で検討した、存在者間における実体的形相の授受が語られた箇所である。引用の初めに、「働くもののすべての働き」とあるのが、外的原因としての作用因の働きであるが、これは存在者の外部の他者から加えられる或る種の「暴力的な運動」であって、それ自体では「重荷であって、厄介なものに過ぎない」。しかしこのような作用因の働きにより、実体的形相が移行した際には、その形相を受容したものの内に「本性的運動」或いは「その形相として、その働くもの自身に内在する力」が生ずるとされる。すなわち形相因は、外的原因たる作用因に対置され、誕生したものの内にあって「甘美な仕方で」働きをなす、言わば内的原因と考えられているのである。先の箇所でエックハルトは、作用因や目的因に対置する形で、存在者の何性ないし本質を他の原因に依存しない内的なものとしていた。この箇所においてはその方向性がより具体的な形で示され、何性ないし本質を司る形相が内的原因であると言明されていることになる。さらに、形相の働きは、それが内奥のものとなればなるほど甘美なものとなるとされていることに注目したい。先に我々は、存在者の何性ないし本質が外部の原因に依存しないとされることを見たが、これらを勘案すれば、形相因の働きが、存在者の内部から発出するゆえに外部の事物に煩わされず、それていることになる。即ちこの地点に至って、形相の内性は、単に存在者の内部にあるという性質をいうにとどまらず、積極的な価値言語として機能してくるのである。以上見てきたとおり、エックハルトは作用因や目的因に対して形相因を内的原因と位置付け、さらに形相の働きを内的であるがゆえに甘美なものであると評価している。しかし、以上の形相理解は『知恵の書註解』においてさらなる展開をみせる。すなわち、存在者の内奥から発するがゆえに甘美なものである形相の働きは、他ならぬ神が存在者を動かすことと重ねあわされて理解されてくるのである。この様子を以下で検討したい。神の命令(imperium)としての形相『知恵の書註解』第184節で、エックハルトは次のように語っている。内部から発出するすべての活動は、喜ばしきものにして甘美なものであり、生命ないし生きることであるが、それが甘美なのは、活動と習慣が合致しているためであって、それは、内的存在者というその名称が示すとおりである。しかし、生命ないし生きることは、外部からのものではなく、内部から、最も内奥から発出するものであるから、そのような内的な働きである。…(中略)…しかし神は、第一の原因にして究極の目的であるから、神が動かす全てのものの最も内奥にある。ここからまた、神がわれわれのうちで働き、われわれが神のうちで、最も内奥のものとしての神のために働くすべての業が、またそれらのみが生けるものである。(13)「内部から発出するすべての活動」が生きることである、という大前提の後、神は全てのものの最も内奥でそれらを動かすという小前提が続き、それゆえ神が被造物の内で働く業が生けるものであると結論されている。さらにまた、同節の少し後に見える文言、「内部に由来し、最も内奥のものとしての神がそれらのうちで動かし、いかなる外部のものも動かすことのないような業こそが、われわれにとって25