ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL NO. 3 (2015.フマニタス10)研究(studia humanitatis)と近代世界の東西フマニタス研究(studia humanitatis)と近代世界の東西根占献一The Studia Humanitatis and the Modern World between the West and the EastKenichi NEJIME私立大学戦略的研究基盤形成事業に基づく「新しい人文学の地平を求めて-ヨーロッパの学知と東アジアの人文学」(2014年12月6日早稲田大学小野梓記念講堂)にて、コメンテーターの役割を求められている根占献一です。今、貴重な映像とともに自らの学術調査に基づき、コメントをされた早稲田大学教授河野貴美子先生に次いで、この任に当たることができることをたいへん幸いに思います。意見、感想を述べる前に、私の今の気持ちを分かっていただくために、若いころに立ちかえってみます。またその事は今回の企画と関わっていますので、ご理解ください。私自身は、イタリア・ルネサンスの歴史と思想を専門にしています。ご多分にもれず、多くの「洋学」研究者はおそらく、明治以後の日本がヨーロッパ近代に直結し、日本の近世は無視して一向に構わないという「観念」の下に、研究を進めてきたのではないか、と思います。遅れた封建社会の江戸を研究してどうなるのだ、進んだヨーロッパの歴史、思想、文化を学ばなくては、自己の確立は出来ないとまで考えていたのではないでしょうか。そのなかでヨーロッパの言語を学ぶのは理の当然だと考えていました。学部生の頃、第二外国語―序列をつけていますから、今は嫌な言い回しです―は第一外国語の継続学習とともに次のステップに進むための不可欠な手順と信じました。歴史に普遍史、世界史という言い方があります。レオポルト・フォン・ランケは世界史を目指したと習いました。しかしランケが叙述したのはヨーロッパであり、ドイツの歴史でありました。故国の歴史から離れたわけではありません。ヨハン・ホイジンガはランケ的歴史概念を超えて普遍的思考に近づこうとする文化史家に思われますが、主著『中世の秋』はいわば故郷の歴史です。ヨーロッパを知らずしてどうして今の日本を知ることができようかという気負いから、生まれ育った地域を離れての歴史、人文の研究はありえないのではなかろうか、と考えるに至りました。石母田正『中世的世界の形成』(昭和21年)のような著述は、私たち日本のヨーロッパ研究者がいかに優れていても、ヨーロッパの歴史描写で物することが出来ない力業でしょう。歴史の研究はできるが、叙述になりうるかどうかの問題です。他方で、西田直二郎『日本文化史序説』(昭和7年)を手にした時、驚きました。ヨーロッパ研究が咀嚼されて、この著はできあがっているではないか、と。日本列島に住む者は昔から外国文化を学んできたのであって明治以降に急に始まったわけではありませんが、それでも近代に大変貌を遂げ、飛ぶ鳥を落とす勢いの欧米に西田は学びつつ、自らの真の関心と拠って立つところを失うことはなかったように思われました。このような先人たちの古典的著書を知り、私の学究的態度はできあがっていった気がします。このため、今回、私立大学戦略的研究基盤形成事業で甚野尚志先生から書類の段階で参加を求められたのは、栄誉を伴う大きな関心事であり、またこうしてお三方の先生のご研究発表を拝聴でき275