ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL日NO.韓中3共(2015.同国際10)シンポジウム仏教文明の拡大と転回開催にあたって日韓中共同国際シンポジウム仏教文明の拡大と転回開催にあたってJapan-Korea-China International SymposiumExpansion and Conversion of the Buddhist Civilization:Opening Comment21世紀の現在、世界の随処で、これまで前提とされてきた様々な枠組みや関係に異が唱えられています。そこに、生じるのは、はげしい対立と憎しみ、そして不信と排他的な結束です。このような事態をさらに深刻化させるのは、現実そのものを適切に理解し、説明し、そして、広く納得させる方法や基盤が諸方面で失効しており、あらたな道筋が容易に読み込めないでいるからだと考えます。学術研究のあり方も、例外ではないでしょう。これは、混迷や混乱という理解をこえています。むしろ、数世紀にまたがるなかでの大きな転換期に値するものと思われます。そうであれば、このような事態を単に時代と呼ぶのではなく、歴史と呼ぶほうが適切ではないでしょうか。その歴史とは、もちろん、現実そのものをさしますが、その現実を把握し、説明する歴史でもあります。歴史と呼ぶことによって、みえてくるものは少なくないはずです。このたび、「仏教文明の拡大と転回」という主題のもとで、日本、韓国、中国の人文学者が集い、2日間にわたって、17名による研究報告と討論をおこなうことになりました。では、なぜ今、仏教文明が問題になるのでしょうか。第一に、仏教は宗教であり、信仰です。しかし、それにとどまることなく、政治、経済、社会、そして言語・文字、造形表現、さらには習俗・儀礼・道徳などに多大な影響を及ぼしてきました。それは、既存の体系や価値を組み替えるほどのものであり、ために激しい抵抗に遭遇しましたが、融合の道を歩むことも少なくありませんでした。その道筋と結末は、一様ではありません。また、その範囲は、広くアジアに及び、現在では、地球規模になっています。まさに、グローバルな仏教文明と言うべきでしょう。第二に、仏教は、本来、インド発祥でした。しかし、土着的な体質をもたない仏教は、その遊行性と固有の世界観にもとづいて、広範囲な移動が可能でした。それは、交易、人口移動などと組み合わさって、強烈な求法や伝法、そして文化の翻訳という姿をとりました。その結果、インドが仏教国でなくなるという逆説を生み出すことになります。かわりに、インド以東の東アジア諸地域に、これまた逆説的ですが、仏教が定着していくことになりました。しかし、なぜ定着したのか、定着することができたのかは、解きがたい難題です。これについては、それぞれの民族、国家、社会において共通するところと異なるところがあるはずです。第三に、仏教がインドで発祥したにもかかわらず、インドが仏教国ではなくなったこと。インド以東の東アジアで仏教が発祥したわけではないのに、仏教の定着をみたこと。この二つの逆説的な関係は大きな意味をもちます。なぜなら、仏教には、歴史を通じて発祥地を執拗に誇示する民族も国家も社会も基本的に存在しないからです。言い換えれば、仏教は、グローバルな文明として自由なのであり、その自由度に比例して、インドを含むアジア、そして東アジアを相対的に、かつ総体的にとらえる視座に満ちているということです。もっと言えば、アジアもしくは東アジアのいかなる民族、国家、社会をも基軸にすえる必要がないのであり、いかなる民族、国家、社会にも拘束されないのです。しかし、すべての民族、国家、社会にかかわるのでもあり、数多の基軸を任意にすえることを可能にします。このような仏教の文明を、今こそ問題視すべきだと考えます。そこから映し出されてくるアジアないし東アジアは、どのように浮かび上がってくるのでしょうか。アジアに拡大し、さまざまな転回をみせた仏教文明は、異文明との遭遇という本源的な共通項からアジアの多様性や矛盾を逆に照らし出してくれるのではな297