ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

ページ
358/542

このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている358ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALが、王権の支援を受けながら平安京近郊の山城国乙訓郡に海印三昧寺を建立し、それが定額寺とされている(なお海印寺は11世紀初頭ごろまで、座主を中心に活動し、華厳宗全体の中でも一定の影響力を保持していた)。また道雄は華厳宗年分度者制度の充実も提言し、勅許された(中林13 b)。さらに、十世紀初頭に王権の意向をもとに各宗が作成した章疏目録である「五宗録」の中には、東大寺円超撰の「華厳宗?因明章疏録」がある。そこに収録された華厳宗担当の章疏類を一覧すると、それが奈良時代に比して三倍以上に大幅に拡充されたことがわかる(花厳宗分44編→華厳宗分135編)。また「五宗録」段階では、直接『華厳経』に関わる章疏類や、唐の法蔵やその法系の学僧が重視した著述類が拡充されていた一方で、南都六宗段階に重視された楞伽系や、『大乗起信論』系統以外の如来蔵系の章疏類はほとんど削除されていたことも判明する。つまり、華厳宗の教学内容は、一部新羅義湘系のものを受け入れつつも、大枠では奈良時代に比し、九世紀前半までの唐華厳宗の論理により近いものに改編された。なおその際、教学内容の変容を担った新たな章疏類の将来が、新羅海商の支援のみならず、上記した渤海との交流に媒介されたものであった可能性も、十分に考慮すべきと思われる。以上のように、『華厳経』は諸宗から重視されつづけ、華厳宗も、平安期以降も,次第に密教色を強めながらも、南都の東大寺・薬師寺や山城国海印寺などを軸に、一定の重要な位置をしめ続けた。参考文献青木隆「地論と摂論の思想史的意義」『新アジア仏教史07中国Ⅱ隋唐興隆・発展する仏教』校成出版社、2010年。家永三郎「東大寺大仏の仏身をめぐる諸問題」朝枝善照編『律令国家と仏教』雄山閣、1994年(初出1938年)。石井公成96a「新羅の華厳思想」同『華厳思想の研究』春秋社、1996年同96b「地論宗における『華厳経』解釈」同上書所収、1996年。金天鶴「平安時代における東大寺・薬師寺の華厳学の相違」『南都佛教』86、2005年。同「薬師寺長朗の華厳思想について」『印度学學佛教学研究』55 - 2、2007年。栄原永遠男「天平六年の聖武天皇発願一切経」同『奈良時代の写経と内裏』塙書房、2000年、初出1994年。高崎直道「花厳思想の展開」『講座・大乗仏教3華厳思想』春秋社、1983年。田中嗣人「河内智識寺の盧舎那仏-日本彫塑史研究の一齣-」『文化學年報』26、1977年。直木孝次郎「天平十七年における宇佐八幡と東大寺の関係」『続日本紀研究』2 - 10、1955年。中林隆之07a「悔過法要と古代王権-神仏習合と悔過-」『日本古代国家の仏教編成』塙書房、2007年。同07b「「花厳経為本」の一切経法会体制」同上書所収、2007年。同11「東アジア<政治-宗教>世界の形成と日本古代国家」『歴史学研究』885、2011年。同13a「寺院・僧侶の仏典と古代国家」『経典目録よりみた古代国家の宗教編成策に関する多面的研究』2010~2012年度科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号22520659)研究成果報告書(研究代表:中林隆之)、2013年。同13b「南都仏教から平安諸宗へ-「五宗禄」からみた平安前期の王権・国家と仏教-」、同上。同15「日本古代の「知」の編成と仏典・漢籍-更可請章疏等目録の検討より-」『国立歴史民俗博物館研究報告』194、2015年。朴享國「朝鮮半島の仏教美術七渤海の仏教美術」『新アジア仏教史10朝鮮半島・ベトナム漢字文化圏への広がり』校成出版社、2010年。堀池春峰「華厳経講説よりみた良弁と審詳」『南都仏教史の研究上<東大寺篇>』、法蔵館、1980年(初出1973年)。松本史朗「如来蔵思想は仏教にあらず」同『縁起と空』大蔵出版、1989年(初出1986年)。皆川完一「光明皇后願経五月一日経の書写について」『正倉院文書と古代中世史料の研究』吉川弘文館、2012年(初出1962年)。宮﨑健司「東大寺の『華厳経』講説」同『日本古代の写経と社会』塙書房、2006年。356