ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL的な発掘調査が行われ、金堂・塔・回廊など創建期の伽藍配置に関する基本情報が得られているが、正式な報告書が刊行されておらず「法起寺式」伽藍が想定されるものの確定には至っていない。7世紀において各地に展開した初期寺院の造営には、大和の王権や有力氏族の関与が指摘され、瓦の型式や伽藍配置の展開過程から地方における寺院造営の歴史的背景を追及する研究が行われている。しかし、地中に埋もれた寺院の伽藍配置を明らかにする作業は容易ではない。そのため、発掘が行われたごく一部の事例を中心として、比較研究が行われているのが現状である。以上の状況を踏まえ、早稲田大学考古学研究室では、下総龍角寺の伽藍配置を測量・GPR(レーダー探査)という非破壊的手法によって明らかにする調査計画を立案した。本発表では、2014年3~4月に実施した龍角寺Ⅱ期(1・2次)調査の概要とその意義について報告する。1.下総龍角寺の発掘調査史まずは、龍角寺の調査史についてまとめる。龍角寺は、1930年代に薬師如来座像と塔心礎が国指定史跡に指定されると俄かに注目を集め、1948・49年に早稲田大学の滝口宏によって初めての発掘調査が行われた。本調査の成果としては、①奈良時代前期創建の法起寺式伽藍を明らかにした点、②回廊の痕跡を追及・復原をした点、③石製鴟尾を発見した点、④龍角寺瓦窯を発見した点、が挙げられている。1971年には、早稲田大学が金堂・塔及び塔北方建造物を調査した。本調査の概報によると、金堂は五×五間一辺50尺の方形であった。また、金堂基壇の発掘によって、現基壇の下層に創建期の基壇が検出された。現基壇が一辺70尺の方形で南・東・西の三面に階段を設けるのに対し、創建基壇は間口51尺・奥行41尺で磁北に対して東へ7.2度傾き、ほぼ真北に近いという。つまり、白鳳基壇の東・南・西に増築し方位を変えて、江戸の金堂基壇を造営した点が判明した。この成果からすれば、創建金堂の主軸は現金堂基壇よりも反時計に傾いていた点が把握できる。塔心礎は、根石が確認できた点から原位置だと判明した。発掘ではこの塔心礎を中心として一辺36尺の方形基壇が確認され、基壇の対角線51尺は金堂の正面長に一致すると指摘された。なお、金堂・塔以外の遺構としては、塔基壇北線から北40尺で3基の柱穴を検出し、建物西の柱筋と判断された。さらに、金堂と塔の中心の南側を調査したが南門は検出されなかったという。1976年には早稲田大学が金堂の北側・西側の調査を行ったが、講堂址と推定される遺構は検出できなかったという。また、金堂西側の高まりが自然地形である点を確認したとされるが、詳細は不明である。1989年の二荒神社の発掘では、社殿に創建期の礎石が転用されていた点が判明したという。また、調査区の東側でロームを掘り込んで形成された版築基壇の西端を南北10mほど検出し、金堂北側に講堂が存在する可能性が指摘された。なお、1989年の調査担当者は、創建期の南門を現在礎石が残る仁王門の位置と考え、南門・金堂・講堂が一列に並び、金堂の東に塔が位置する変則的な伽藍配置を想定した。その他、1987・88・2003・05年にも発掘調査が実施されている。以上、龍角寺の発掘調査の成果を整理した。1948・49・71・76・89年の調査成果の正報告が行われていないため、不明な部分が多いものの創建期の伽藍配置の推定に関しては一定の成果が上がっている。すなわち、創建伽藍の軸線が現金堂基壇の軸線よりも反時計方向に傾く点、また滝口宏が想定した法起寺式伽藍がその後の調査で南門・金堂・講堂が一直線に並び金堂の東に塔が位置する変則的な伽藍配置へと認識が改められている点、この2点が現在までの調査成果として総括できる。しかし、発掘調査史を検討すると、確実なのは東西に並ぶ金堂と塔の位置関係、及びその軸線のみで、仁王門が創建南門の位置にある確証は何もなく、講堂の位置についても考古学的に確定しているとは言い難い。最大の問題は、従来の研究の基礎となっている現地形の情報が古く、正確な地形情報に基づく分析が行われていない点、方位の問題が議論されながらも古代?近世までの方位の変遷が時間的な推移として整理されていない点、この2点に集約できる。まずは、現地形の正確な情報を高精度で記録する測量図の作成と、地中の様相を把握するGPR(レーダー探査)など考古学的な非破壊調査が必要である。2.研究課題と調査方法386