ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

デジタル技術・非破壊的手法を用いた古代寺院における伽藍配置の調査研究【研究課題】上記のように、過去に多くの調査が実施されているにも拘わらず、龍角寺の伽藍配置は未だに明らかではない。そのため、本調査では、①龍角寺の創建期伽藍の配置を明らかにする、②古代から近世までの龍角寺の遺構の変遷を明らかにする、この2点を目的とする。この課題を達成するために、本調査では観察に基づく微地形測量とGPR・磁気探査という非破壊手法の調査を行った。以下では、その調査方法について概略する。【測量調査】地形測量においては直接法を採用し、レベルとトータルステーションを用い10cm等高線の測量図を作成した。実測の際には、作業者が視覚的に等高線を共有し、微地形の変化を詳細に観察できるように等高線毎にカラーピンポールを設置した。その後カラーピンポールの位置をトータルステーションで測距し、地形を細かく観察しながら等高線を作図した。全調査期間で測点は合計11061点に達した。測量図の縮尺は、対象地域全体を100分の1とし、礎石等が表土上に露出して遺存する金堂・塔・仁王門・龍神宮・鐘楼については20分の1とした。調査に用いた局地座標系を平面直角座標第9系(世界測地系)に変換する測量も行った。【GPR探査】本調査では創建期の伽藍配置を明らかにするため、GPR探査も実施した。GPR(Ground PenetratingRadar)探査とは、物理探査の一手法である。GPR探査は発掘とは異なり、完全に非破壊で遺構の位置や形状を把握できる。すなわち、地下に電波を送り、返ってきた反射波の速度と強さを受信し解析することで、地下の情報を推定できる。GPRは誘電率(土の含水率)の差に反応するため、基壇などの大型構造物や空洞・金属・石などは反射が強く、周辺の土と同質の遺物(土器など)の反応は弱い。また、含水率の異なる土層の境界の把握も可能である。含水率の高い土が堆積する溝や、版築で造られた基壇を有する古代寺院において、GPR探査は非常に有効な方法である。実際の作業としては、電波を送受信するアンテナを橇に載せ対象地に設定した側線に沿ってアンテナを移動させ、受信した反応のデータを記録する。測線については、測量の結果を考慮に入れ、可能な限り遺構に直行するような設定を行う必要がある。多くの測線での反応の探知により、埋蔵遺構の信憑性が向上するためである。GPR探査で成果を上げるためには、観察に基づく測線の設定と、遺構の状況を把握した上での適切な機械設定が重要である。調査区で取得した地下の情報は距離補正をかけ断面図のように記録される。これをProfile図と呼び、各測線の反応の深さや形状を捉える際に使用する。平面図の表示も可能であり、これはTime-Slice図と呼称するが、反応の平面的な形状を把握する際に有効である。Profile図、Time-Slice図の両側面からの検証で、遺構の構造や各遺構の関係を3次元的に分析できる。本調査におけるGPR探査の主目的は、①回廊の反応の把握、②金堂・塔など主要堂塔の基壇の反応の検出、③仁王門における基壇有無の確認、以上の3点である。今回使用したのは、スウェーデンMALÅGeoscience社製のRAMAC/X3Mシステムの500MHzアンテナである。500MHzアンテナは、地中の状況にもよるが、地表下約3~4 mまでの情報を得るために最適な周波数を有している。【磁気探査】本調査においては磁気探査も実施した。磁気探査はGPR探査同様、非破壊的手法の一つで、地中の磁気を帯びた遺物の検出が可能である。鉄などの金属、被熱した遺物(瓦など)や遺構(瓦窯など)の位置を把握することができる。実際の作業としては、側線を設定後、磁力計を持って歩き、1mごとに数値を記録する。記録した数値の変化量の大小から地中の磁場の異常部を把握するという方法である。本調査においては、①北西斜面の瓦散布地における瓦窯の有無の確認、②金堂基壇上にある礎石の被熱有無の確認を目的として磁気探査を実施した。今回使用したのは、イギリスGeoscan社製のフラックスゲート型磁力計FM18である。3.測量・GPR・磁気探査の成果【測量】図1には、本調査での測量成果を示した。まず、境内の中で仁王門から金堂前面まで、そして金堂東387