ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL NO. 3 (2015.漱石10)とロシアの世紀末文学―「それから」の周辺―国際シンポジウム漱石の現代性を語る漱石とロシアの世紀末文学──「それから」の周辺──源貴志S?seki and Russian Fin-de-Siecle Literature:Around Sore Kara (And Then)Takashi MINAMOTOAbstractS?seki, who did not know much about Russian language, was infrequently involved in Russian literature onhis own initiative. Even so, Sore Kara (And Then) and Higansugimade (To the Spring Equinox and Beyond)blurred into the shadow of Russian literature likely because in reality, around them was established a readingpublic that was not preoccupied with the differences in language and country, and that tried voraciouslyto read European literature of the same age. Today, while the framework of national literature is losing itsmeaning in the world of literature research, we can once again ascertain the appearance of the receptacle of“world literature”around S?seki from 100 years ago.「それから」とアンドレーエフの「赤い笑」昨日の『朝日新聞』紙上では、代助と平岡が酒を酌み交わしていて、平岡が酔っ払って長広舌を振るっていました――「こころ」「それから」に続き、4月1日から漱石の「それから」が『朝日新聞』に再連載されています。今日はその、「それから」にかかわる話題になります。いまからちょうど30年前、1985年に森田芳光監督による「それから」の映画化作品が公開されています。「それから」の原作には、主人公代助の移動の手段としての電車(路面電車)がたびたび出てきますが、映画作品においても、主人公が電車に乗る場面がたいへん印象的な画面づくりをされて繰り返されています。とくに、電車の窓一杯に夕やけの赤い色が広がっていくシーン(青山練兵場の脇を通る電車に乗っている箇所に該当するように思われます)は、森田芳光監督が、「それから」にロシアの作家アンドレーエフ(ЛеонидНиколаевичАндреев)の影響があるということを勘案して考え出したものではないかと思われます。原作の「それから」のなかで、このシーンからすぐに思い浮かぶのは作品末尾の、ちょっと唐突に感じられる表現です。忽ち赤い郵便筒が目に付いた。するとその赤い色が忽ち代助の頭の中に飛び込んで、くるくると回転し始めた。傘屋の看板に、赤い蝙蝠傘を四つ重ねて高く釣るしてあつた。傘の色が、又代助の頭に飛び込んで、くるくると渦を捲いた。四つ角に、大きい真赤な風船玉を売つてるものがあつた。電車が急に角を曲るとき、風船玉は追懸けて来て、代助の頭に飛び付いた。小包郵便を載せた赤い車がはつと電車と摺れ違ふとき、又代助の頭の中に吸ひ込まれた。烟草屋の暖簾が赤かつた。売出しの旗も赤かつた。電柱が赤かつた。赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。仕舞には世の中が真赤になつた。さうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと?の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼け尽きる迄電車に乗つて行かうと決心した。401