ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL NO. 3 (2015. 10)漱石の科学への関心国際シンポジウム漱石の現代性を語る漱石の科学への関心小山慶太S?seki’s Interest in ScienceKeita KOYAMAAbstractS?seki took an extraordinary interest in sciences as a literary man. For example, we can see his tendencyin the Law of Gravitation written in Wagahai wa Neko dearu (I am a Cat), the Pressure due to Radiation inSanshiro and the discussion with physicist, Torahiko Terada. Using such examples, I will survey how S?sekifused Science and Literature, which are regarded as Oil and Water, in his novels.早稲田大学の小山でございます。「漱石の科学への関心」という、たぶん漱石研究者では誰もアプローチしない話を今日はしようかと思っております。ここにお集まりの皆さんはおそらく例外なく漱石の大ファンなんだろうと思います。わたしも、漱石研究の専門家ではありませんが、ファンとしては人後に落ちないと自認をしております。そのファンの方たちを前に今日はいささかショッキングな話を致しますので、どうか覚悟をしてお聞きいただきたいと思います。漱石は寺田寅彦との交流やロンドンに2年間留学した体験を通して科学に対する関心を大変深めました。その知識は文学作品の中にも使っております。すぐ思い浮かぶのは、『猫』の中に出てくる水島寒月という物理学者の首縊りの力学というのがあります。それから、ニュートン力学の話なんかも猫に語らせてます。猫がニュートン力学語るんですから、たいした猫だなあと思いますけども、そういうふうに科学を作品の中に使ってるんですが、1つものすごい失敗をしたことがあります。それは、文学の研究に科学の研究方法を取り入れるという、大変無謀なる試みをしたことです。あとで本人も失敗をしたことには気がつくんですけれども。漱石は朝日新聞に移る前ですけれども、東京帝国大学で文学の講義を行い、それを文学論と文学評論という2つの著作にまとめております。そのベースにあるのは、文学の研究と科学の研究を対比する、さらに敷衍して文学研究をサイエンティフィックにやろうとした試みです。これは一種の妄想にかられたわけです。ご承知だと思いますけれども、せっかくロンドンに留学しながら漱石は、英文学の研究に行き詰まっちゃうわけです。泥沼の中でもがくような袋小路に入っちゃうような苦しみを味わうわけです。そうなると、どっかに活路を見出したくなるわけです。こういう表現、お読みになったことあると思いますが、「文学書を持って文学の研究をするのは血で血を洗うようなものである」と。つまり、無駄であるということを言ってます。「無駄である」っていうぐらいならいいんですけれども、血で血を洗うっていうのはいかにも毒々しいというか、禍々しい表現だと思います。つまり、そのぐらい切羽詰まっちゃった。そこで、どうしたかって言うと、科学に頼ろうとするわけです。きっかけの1つは池田菊苗という漱石より4歳年上の化学者がドイツ留学を終えてロンドンに立ち寄ったことです。池田はロンドンのロイヤルインステーションという科学の研究機関で研究をするために立ち寄るんですが、そのときに人の紹介を得て漱石の409