ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
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RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌
WASEDA RILAS JOURNALそこから、温泉宿の中か、温泉宿の周辺で、何かの破局が起きるんじゃないかなあという気がするんです。そして、結末を迎えたとき、漱石は冒頭に引いたポアンカレーの「偶然」のセリフを津田にもう1回吐かせるつもりであったのではないかと思います。さっき、『猫』のニュートン力学の話とか、首縊りの力学の話とか、『三四郎』の光線の圧力測定の話とか出しましたけれども、これはこれでうまく作品の中に取り入れて文学を豊かにしてると思うんです。そういう点ではうまいと思うんですが、必ずしも首縊りである必要はないですね。それから、光の圧力の測定である必要はない。ほかのテーマを持ってきても、それを換骨奪胎して、うまく溶け込めせれば、同じような効果はあったと思うんです。『明暗』の「偶然」の場合はそれを超えてると思います。作品全体を包んでるんです。だから、これをどこまで読み解いてくかっていうことを掘り下げてったらまた新しいシュミレーションができるんじゃないかなというふうに思っております。時間がだいぶ過ぎちゃったんですが、まとめますと、結局漱石は確かに寅彦が言うように文学者としては珍しく科学への造詣が深かったし、関心が深かった。そこで二面性が出ちゃったんです。一つは文学の研究を科学的にやろうとして失敗しちゃった。しかし、文学作品の中に、科学の内容を溶け込ませるっていうことは、おそらくほかの作家が成し得なかった技を発揮して、作品を興趣豊かなものにしたんじゃないかなっていうふうに思ってます。それをトータルで考えると、漱石の面白さっていうのはまた味わい直すことができるんじゃないかなっていうふうに思っております。どうも、ご静聴ありがとうございました。418