ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

伝セネカ『オクタウィア』の独創性tunc sancta Pietas extulit trepidos gradusuacuamque Erinys saeua funesto pedeintrauit aulam,その時,聖なる敬愛の女神ピエタスは震える足を踏み出し,残忍なる復讐の女神エリニュスが不吉な足で,空虚な宮廷に踏み入り,(160-162)これに関しては,これに続く部分と関連させながら,後で考察する.ピエタスが女神の固有名詞として使われていると考えられることが重要である.(4)(合唱隊)sancta quid illi prodest pietasdiuusque pater?quid uirginitas castusque pudor?奥方の清らかな愛情と,神となられた父上が純潔と汚れなき恥じらいが役立つのでしょうか(285-287)合唱隊(29)は,皇帝夫妻の離婚の噂にその不当性を訴えながら,ピエタスは有効なのかと問う.ここでは,「神となられられた父上」と言う句から,その持主はオクタウィアで,その内容は「純潔」,「汚れなき恥じらい」であると付言され,後に言及する「暴君である愛の神」と同一視されるネロとの対照が強調されている.「清らかな」と訳されている形容詞は「神聖な」をも意味し(30) ,もともとピエタス宗教性を帯びていることを示している.(5)(ネロ)armis fideque militis tutus fuit,pietate nati factus eximia deus,post fata consecratus et templis datus.兵士の軍備と忠誠心のおかげで身の安全と保ち,子息の並外れた孝心により,死後,神として崇められ神殿に祀られておられる.(526-528)ネロの台詞でも「信義(=忠誠心)」が近傍に用いられ,ここでは兵士の「忠誠心」と,養子ティベリウスが先代のアウグストゥスを神として祀ったことが言及されている.この場合,ピエタスは敬神と親族愛を兼ねていることになる.(6)(セネカ)Vix sustinere possit hos thalamos doloruidere populi, sancta nec pietas sinat.国民は嘆き悲しみ,このような結婚を見るにたえないでありましょうし,気高い尊敬の念はそれを許しはしないでしょう.離婚を敢行し,愛人と再婚しようとするネロを諌めて,セネカが,そのような婚礼を国民も見ることが耐えられないし,「神聖なピエタス」(=気高い尊敬の念)もそれを許さないと言っている.この場合のピエタスは夫婦の絆を含む人倫という意味であるが,国民への言及から共同体を支える徳義であり,「神聖な」という形容詞を付されているところから察せられるように,やはりその根本に宗教性が前提とされている.(7)(合唱隊)En illuxit suspecta diufama totiens iactata dies:cessit thalamis Claudia diripulsa Neronis,quos iam uictrix Poppaea tenet,cessat pietas dum nostra grauicompressa metu segnisque dolor.ああ,ついに,長い間予感された日,何度も噂になった日が明けてきました.クラウディウスの娘御は,残酷なネロの部屋から追放され,ポッパエアが,すでに,勝利者となってそこに君臨しています,一方,われらの愛は重苦しい恐怖に押しつぶされてままならず,悲しみの気持ちも,鈍く,麻痺したまま.(669-675)オクタウィアが離婚され,ポッパエアが皇后となる知らせに対して,何もできないでいるので,重苦しい恐怖に圧迫された自分たち(=合唱隊)のピエタス(=愛)の力の無力を嘆いている.この場合の41