ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL NO.定3住(2015.者と、10)落ちていく者と―『明暗』における小林登場の国意際味シンポジウム―漱石の現代性を語る定住者と、落ちていく者と──『明暗』における小林登場の意味──朴裕河Those Who Settle and Those Who Fall:The Meaning of the Appearance of Kobayashi in Meian (Light and Dark)Yuha PARKAbstractKobayashi in Meian (Light and Dark) is depicted as a person on the verge of his fate:“falling”in Korea.Kobayashi, upon attaching himself to Tsuda and his wife O-Nobu, can be seen as a person who behavesunpleasantly. However, this behavior was also an appeal by a poor person who had not created a place forhimself to live in Japan and did not want to go to a strange land. Both Tsuda and O-Nobu are generally coldto him. As the word suggests, a“colony”cannot be formed without“colonists.”Meian (Light and Dark) is astory that critically depicts“settlers”as people who ought to become colonists and be sent out, but who aresatisfied with not moving.1.明・暗の時代明暗は、長い間夫婦物語として読まれてきました。そこに結婚前に付き合っていた女性が出てきて漱石が多く扱ってきた男二人と女一人の構図ではない、男一人に女二人の構図が展開されています。漱石が生涯追及してきた「関係」物語の変形としてもとても興味深い物語となっていることも事実です。しかし、この小説には実はもう一人の男――津田の友人である小林が、作品の割合はじめから登場し、後半の温泉場の場面直前まで繰り返し登場しています。そしてこのことは、実は『明暗』を読むにおいて欠かせない重要な構図といわなければばなりません。『明暗』というタイトルは、大きくは中流階級の一人として、裕福な家の娘を奥さんにして、親にも援助をしてもらいながら悠々と生きてきた津田を、金と病気――生きるにおいて根本条件であるはずの道具の欠如といった事態を目の前にした――根底から揺さぶりつつ、しかも家庭の破綻もありうるといった意味で津田の『明』から未知の『暗』への過程をたどる物語と見ることがまずはできます。同時に、たとえお金と健康に脅かされつつも津田は友人小林に比べれば『明』の世界に属しているという意味で津田の一見「明」の世界と、小林の『暗』から未知の「暗」の世界の対比を描いているともいえるでしょう。何しろ、小林は先のことが分からないような未知の世界-朝鮮へ「落ちて」ゆく運命にある者として描かれます。そこで本稿では、『明暗』を小林と津田・お延に焦点を合わせ、そうした構図設定の意味を探ってみたいと思います。2.津田と小林-不安を抱きしめて津田は、病院からの帰り道に「周囲のものは彼の存在にすら気が付かずにみんな済ましてゐた」(一、6)と感じています。それは、後に小林が自己存在を社会の中に認めてもらえない苦痛を訴える場面と照応しています。津田は、小林の苦痛を理解する一つの契機を得たといえるでしょう。そしてそれこそが究極の「暗」の世界となるはずなのです。「今現429