ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALピエタスは,歴代の皇帝への敬愛と忠誠心がオクタウィアへの親愛の情となったものと考えられる.その後に,外敵を打ち破り,秩序と平和を築き上げたローマ国民の力(31)はどこへ行ったのかと嘆いているが,ここに合唱隊の現状への不満と過去の理想化が読み取れる.(8)(ネロ)Sed adesse cerno rara quem pietas uirumfidesque castris nota praeposuit meis.だが,あそこにやってくるのが見えるのは,稀なる忠誠心と名高い信義でわたしの軍隊の指揮官となった男ではないか.(844-845)ここで,ネロは,ポッパエアとの再婚に反対したローマの民衆蜂起を鎮圧した将校(32)に関してピエタスと言う表現を用いており,ここでも「信義」(フィデス)とともに用いられていて,二詞一意(33)的な用法として,木村が訳したように軍人の忠誠心を意味しているであろう.(9)(合唱隊)O funestus multis populidirusque fauor,qui cum flatu uela secundoratis impleuit uexitque procul,languidus idem deserit altosaeuoque mari.Fleuit Gracchos miseranda parens,perdidit ingens quos plebis amornimiusque fauor,genere illustres, pietate fidelingua claros, pectore fortes,legibus acres.ああ,衆望を集めたがゆえに恐るべき死を招いた人の数のおびただしさ,声望は船の帆を順風で膨らまして沖へと運びはするが,それが,凋落すると,沖合いの荒海に船を見捨ててしまう.グラックス兄弟がかわいそうに母親を泣かせ,命を落としたのも,もとはといえば,民衆の大きな愛,度を過ぎた支持.家柄に傑出し,忠誠,信義,雄弁にかけて名高く,心は雄々しく,法を守ることにかけては俊敏な兄弟であった.(877-886)民衆に人気があったがために,その離婚に反対する暴動が起き,そのためにかえって流罪の上に処刑されることになったオクタウィアの運命を嘆き,やはり民衆の人気ゆえに身を滅ぼしたグラックス兄弟(34)に喩え,彼らはピエタス(=忠誠)と信義その他に傑出した人物だったと述べている.以上,見てきたように,語としてはっきりと出てくるピエタスのうち,親族愛に限定されるものは少なく,親族愛を含むより普遍的な道徳に近い意味で使われている方が多いように思える.この点は,たとえば(10)(オクタウィア)nullum Pietas nunc numen habetnec sunt superi:regnat mundo tristis Erinys.敬虔の神ピエタスはもう神としていかなる力ももたず天の神々はおられない.この地上に君臨するのは,陰鬱な復讐の女神エリニュス.(911-913)保留した(3)とともに,この箇所を検討する.注目すべきは,合わせて2か所現れる,敬神と親族愛の女神ピエタスと復讐の女神エリニュスの対象である.(3)はプロロゴス(35)における乳母の台詞だが,最後に追放刑に処されて,兵士に引かれて行くオクタウィアが語る(10)にも,この対立が明示されている.(10)の直前の台詞は親族名称を使い,ピエタスの無力を強調している.fratris cerno miseranda ratem.hac est cuius uecta carinaquondam genetrix, nunc et thalamisexpulsa soror miseranda uehar.哀れな私には兄(ネロ)が用意した船が見える.かつては母親(アグリッピナ)が,今は寝室を追われた哀れな妹である私が運ばれていく船が.(908-911) (36)42