ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

伝セネカ『オクタウィア』の独創性ここには息子による母殺し,兄による妹への迫害,夫による妻の追放と処刑と言うインピエタス(37)の行為が凝縮されている.(3)の周辺箇所でも,アグリッピナが乗り込んできた宮廷で行われた,アグリッピナによる夫殺し,ネロによるブリタニクスの暗殺が列挙されている.また,アグリッピナとエリニュスの同一化がポッパエアの夢の中に見られる(721).ここでアグリッピナを指す「夫の母」(coniugis genetrix)と言う句は,ことさらに親族名称を使い,ピエタスのアイロニーを際立させている.この同一化は,プロロゴスのオクタウィアの台詞でも言及されている.tulimus saeuae iussa nouercae,hostilem animum uultusque truces.illa, illa meis tristis Erinysthalamis Stygios praetulit ignesteque extinxit, miserande pater,わたしは残忍な継母の言いつけと敵意と恐ろしい顔つきに耐えてきました.あの不吉な復讐の女神エリニュスが,わたしの婚礼に冥界の火を松明として差出し,哀れなお父さま,あなたを亡き者にしてしまいました.(21-25)ばれ,結婚するがよい.母の恨みと復讐の手が,この炎をすぐに悲しみの火葬の薪に点火することだろうから.非道な殺害の記憶は,冥界の亡霊の間にあっても,永遠にわたしから薄れず,未だに復讐の成らぬわが魂魄に重くのしかかっている.(593-600)この作品において,ネロをめぐってピエタスとエリニュスの対比があるとすれば,エリニュスの側にいる人物がポッパエアであるのに対し,一方にはオクタウィアが対置されているのは容易に想像される.しかし,オクタウィアにも復讐の意志があることは,プロロゴスにおいてエレクトラによびかける所から察せられる.そこでは自分に比してエレクトラが父の死を嘆くことができたこと,自分が弟を奪われたのに対し,「復讐者」としてオレステスを守り抜いて,復讐を成就できたことに言及している.さらに,自分の唯一の救いは「死」(39)であるとしながら,trepidante semper corde non mortis metu,sed sceleris心がたえず乱れるのは,死を恐れるためではなくて罪を恐れるため.(106-107)直接の同定はなされていないが,クラウディウスを殺したのはアグリッピナなので(38) ,連想があるのは間違いないと思われる.アグリッピナの亡霊の台詞にも注目したい.Tellure rupta Tartaro gressum extuli,Stygiam cruenta praeferens dextra facemthalamis scelestis: nubat his flammis meoPoppaea nato iuncta, quas uindex manusdolorque matris uertet ad tristes rogos.manet inter umbras impiae caedis mihisemper memoria, manibus nostris grauisadhuc inultis.大地を割って,冥界から,わたしは歩み出てきました,血みどろの手に,この罪深き婚礼のため,冥界の松明を持って.この炎に照らされて,ポッパエアはわが息子と結と語って,恐れているのは「死」ではなく,「罪」(40)と言っている.ここでの「罪」は生きていることによって,夫殺しの大罪を犯すことになると言っているものと推測される.オクタウィアにはこれと言った罪に関する言及の無いクラウディウスと若くして殺されたブリタニクスを除けば,主要人物中では例外的にピエタスという徳目に忠実な人物と言える.唯一ピエタスに背く面があると敢えて言うなら,夫および継母(従姉でもある)との関係であろう.Extinguat et me, ne manu nostra cadat!わたしの手で殺されぬよう,あの方は,わたしも亡き者にするがいい!(174)utinam nefandi principis dirum caputobruere flammis caelitum rector paret,忌まわしい皇帝の恐ろしい顔を,43