ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL NO. 3 (2015. 10)パネルディスカッション国際シンポジウム漱石の現代性を語るパネルディスカッションPanel Discussion「明暗」の言語宇宙The Language Universe of Meian (Light and Dark)司会:中島国彦総合司会:鳥羽耕史パネリスト:エマニュエル・ロズラン、朴裕河、堀江敏幸、蜂飼耳、源貴志、小山慶太鳥羽:総合司会の鳥羽です。それでは、第2部のパネルディスカッションを開始させていただきます。ここからの司会は中島国彦先生にお願いします。中島:それでは、パネルディスカッションを始めたいと思います。パネラーのみなさんがお互いに何か確認し合うことでもいいですし、フロアの方からいくつかの質問をいただきましたので、それを紹介しながら、それにお答えいただくのでもいいと思っています。わたくし自身、コーディネーターとして、どういうふうに実りある漱石のシンポジウムが可能かを考えた時、なるべく抽象的な議論にならないように、具体的に作品の一節一節があらためてこのように新鮮だということが発見出来ないかと工夫しました。今ホッとしているのは、わたくしの記憶では1回も「則天去私」という言葉が今日出て来なかったことで、それは本当によかったと思います。もちろん『明暗』の場合、痔の手術や温泉場行きなど漱石自身の体験が踏まえられていますので、漱石のことをまったく考えないわけにはいきませんけれども、ともかく作品の具体的な細部を論ずることで、その言語宇宙を解明したいと考えたわけです。質問なども出ておりますので簡単に紹介して、それらを踏まえながら追加の発言をお願いしたいと思います。ロズランさんには、たとえば「会話の勾配」についてですが、勾配が下り坂みたいになってくると、会話がもう行き着いてしまうのか、あるいは会話がもう少し広がっていくことになるのか、というご質問をいただいています。朴さんが出された時代との関係ということでは、漱石が時代をどう見たのか、当時は第一次世界大戦の時期なのですが、漱石の意識がどの程度あったのかについて質問がありました。小林の場合だと「暗」になるわけですけれども、『明暗』の「明」ということでは何かイメージができるのでしょうか、という問題です。それから、堀江さん、蜂飼さんからは、「書く」ということに沿った問題点が出てきたわけですけれども、特にフロアのみなさんにいちばん関心があるのは、書いて来てこのあとどうなるかということですね。お延のこのあとはどうなるだろうということも含めて、この作品の結末についてもう少しコメントがいただけないかと思います。小山さんについては、やはり科学について「レトリック」という言葉を使って展開されたわけですが、そのレトリックは、必ずしも悪い意味で使っているわけではないのですね。漱石の文章には印象的な一行が出てくるわけですけれど、それがレトリックとどうつながるのかについて質問が出ています。それから、源さんには、時代の中の「不安」といったイメージが『明暗』の作品全体とどうつながるか、それから、アンドレーエフとのつながりは分かったが、ドストエフスキーとはどうなのかという質問も出ておりました。それから、全員に対しての質問では、『明暗』の中で共感できる人物がいるでしょうかという問題が出されています。「津田はひどい奴だ」とよく言われるのですが、共感出来る興味深い人物は無いでしょうか。ロズラン:まず、好きな人物といえば、藤井の息子の「真事」です。「二十二」で、津田は彼に出会い「おい真事もう行こう」と言いますね。もちろん、真事はあまり重要でない人物ですが、面白い問題を語ってくれます。津田は藤井の家の方に行って偶然その道で真事と会います。町で手品師が出てきますね。問題は「嘘」ということです。「誰が嘘つきか」ということです。嘘つきは真事によるとおじさん、津田になります。つまり、449