ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

ページ
46/542

このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている46ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNAL天界の支配者が火炎で埋め尽くしてくださればよいのだが!(227-228)と,ネロへの復讐の可能性を隠していない.しかし,ネロが彼女に憎まれる原因はネロのインピエタスにあり,彼は「神々の敵」であり,「神殿から神々を」,「祖国から市民を」追放して,「弟の命を奪い」,「母の血を飲み干した」「非道の君主」(dux impius)(237)と言われている.これらの箇所のイメージを繋ぐのは「婚礼」と「冥界の松明」である.プロロゴスではオクタウィアの婚礼にも,松明とともにエリニュスが現れ,不幸(=クラウディウスの死)を齎したとされている.冥界から来たエリニュスがメッサリナの狂気の婚礼(41)に破滅を齎し,アグリッピナの亡霊がポッパエアの婚礼の不吉な結末を予言する.婚礼の松明は怒りの炎となって復讐を呼び,これは『メデア』に現れる「怒り」とピエタスの関係を想起させる.婚礼の松明と破滅の炎のメタファーである.実際にアグリッピナの亡霊が,夫クラウディウスの亡霊にせきたてられて,息子に破滅への道を促す役割を果たす場面(42)で,読者もしくは観客は,メデアが自ら殺したアプシュルトゥスの亡霊にせきたてられて,子殺しを敢行する場面を思い出すであろう.アグリッピナが夫の亡霊をなだめようと言った,次の台詞は重要である.ultrix Erinys impio dignum paratletum tyranno, uerbera et turpem fugampoenasque quis et Tantali uincat sitim,dirum laborem Sisyphi, Tityi alitemIxionisque membra rapientem rotam.復讐の女神が邪悪な暴君にふさわしい死を用意しています.それに鞭打ちと恥ずべき逃走とその他の罰も.タンタルスの喉の渇きにも,シシュプスの恐ろしい仕事にも,ティテュオスの肝を食らう禿鷹にも,イクシオンの体を回転させる車にもまさる罰を.(619-623)「復讐の女神が非道の暴君にふさわしい死を用意している」という句は,スエトニウスの「ネロ伝」にある「鞭打ち」(43)を含む罰が列挙されていることから,ペトラルカ,サルターティ以来,『オクタウィア』がネロの死の68年以後の作品と言う有力な根拠の一つとされる.しかし,ここでは続く,『テュエステス』のタンタルスの亡霊によるプロロゴスを想起させる句に注目する.先程の『メデア』同様,『テュエステス』への連想によって,タンタルスが蒙っている地獄の劫罰が,食人という非道に関連した関連した,タンタルスの孫であるアトレウス,テュエステス兄弟,特に食人をさせた側のアトレウスの破滅と死後の報いを思わせる.ここに見られる類似は,タンタルスが『オクタウィア』のアグリッピナ同様,子孫の破滅を促す役を果たしている(44)ばかりではなく,タンタルスやアグリッピナが冥界で苦しんでいるように,アトレウス,テュエステス兄弟同様に,ネロが破滅して地獄の劫罰を受ける様が想起される.セネカがネロに仁慈と妻への愛を説く場面(45)は,『テュエステス』において,アトレウスの非道を従者が思いとどまらせようとする場面に似ている.ここでは両者とも理性的立場は説得に失敗するか,それによって,Stulte uerebor, ipse cum faciam, deos.自ら神を造ったこのわたしだ,神々を畏れるとすれば馬鹿な話だろう.(449)と言うネロの台詞に見られる狂気と思い上がり(46)を浮き彫りにし,spernit superos hominesque simul神々を人をも侮蔑している(90)と言うオクタウィアの台詞に見られる,ネロの実態を証明する.『テュエステス』や『メデア』同様に,セネカの悲劇ではピエタスと言う語が何度か使われるのは前述の通りで,『オクタウィア』も同様である.こうした内容の作品であれば,当然のことだが,『オクタウィア』においては女神ピエタスと復讐の女神エリニュスの対置に見られるように,ピエタスやインピエタスのモティーフを効果的に使いながら,エリニュス(複数ではエリニュエス)の支配する世界を時間的,空間的に超えた所に,正義が実現する,ピ44