ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

WASEDA RILAS JOURNALtum ancilla domina validior et Poppaea non nisi inperniciem uxoris nupta; postremo crimen omni exitiogravius.「オクタウィアにとっては,そもそも結婚式の日からして葬式であった.彼女は悲しみのほかには何も思い出せなかった筈の家に嫁ぐ.まず父を,すぐその後で弟を,毒殺によって奪われる.ついで主人の彼女よりも下女がネロに寵愛される.ポッパエアは,この正妻をなきものにして初めて結婚できた.あげくの果てが死よりもむごたらしい弾劾の布告である」また次の一節は22歳のオクタウィアの最後の場面で,彼女自身の言葉とされている.「私はもう元首の妻ではない,妹にすぎない」cum iam viduam se et tantam sororem testator(14.64)これは『オクタウィア』における主人公の台詞,Soror Augusti, non uxor ero.私は皇帝の妹であっても,妻ではなくなります.(658)を想起させる.タキトゥスにおける,オクタウィアの死の描写(49)は,残忍なもので,鋼で縛られ,四肢の血管を切り開かれるが,恐怖で血が流れず,発汗室で窒息死したとされる.さらに首はポッパエアのもとに送られたとされる.『オクタウィア』において,オクタウィアの貞淑でつつましい性格は,タキトゥスの記述と共通しているが,彼女の死は,悲劇では予告的に言及されるだけで,悲惨に物語られているタキトゥスの記述とは一線を画している.タキトゥス『年代記』との時間的前後,影響関係は不明(50)だが,少なくとも『オクタウィア』の作者が,「正義の実現」,「肉親の情」によって(51)復讐を心では望んだとしても,それを実行に移すことなく,抑制的にふるまい,自らの罪ではなく,夫の不実と国民の人気と言う外的要因によって不幸に陥った立派な女性として,好意的に描いていることは間違いないであろう.なお,タキトゥスの『年代記』14巻でオクタウィアの離婚,追放,処刑を報告した後,15巻で,有名な「ローマ大火」と「セネカの死」が記述される.16巻は後半部分が欠損しており,ネロ自身の失脚と死は,スエトニウスの「ネロ伝」,カッシウス・ディオの『ローマ史』によって知られる.3.合唱隊の立場ここで,合唱隊に見られる基本思想を考察したい.Vera priorum uirtus quondamRomana fuit uerumque genusMartis in illis sanguisque uiris.Illi reges hac expulerunturbe superbosultique tuos sunt bene manes,uirgo dextra caesa parentis,ne seruitium paterere graue etimproba ferret praemia uictrixdira libido.Te quoque bellum triste secutum est,mactata tua, miseranda, manu,nata Lucreti,stuprum saeui passa tyranni.dedit infandi sceleris poenascum Tarquinio Tullia coniunx,quae per caesi membra parentisegit saeuos impia curruslaceroque seni uiolenta rogosnata negauit.かつての祖先のローマの徳は/まごうかたなく本物で,人々には/軍神マルスの血筋と本物の家柄がありました./かの人々はこの都から傲慢な王を追放し,/また,あなたの霊の復讐も立派に果たされました,/ウィルギニア,父の手で命を召された方,/それはあなたがつらい奴隷の身となり,/勝ち誇った恐ろしい情欲の非道な獲物と/ならぬようにするため./そして,ルクレティア,あなたがもので悲惨な戦いが続きました,/おかわいそうに,われとわが手で命を断たれた/ルクレティウスの娘,/残忍な暴君タルクイニウスに辱めを受けたがために./この忌まわしい罪の罰をうけたのは/タルクイニウスのみならず,その妻トゥリアも./トゥリアは,殺された実の父の遺体の上を/親不孝にも残忍な車を走らせ/ずたずたになった老いたる父に火46