ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

『和歌一字抄』の注記をめぐって―注記を付す意図―(13)522一はじめに『和歌一字抄』には他出を確認できない歌や他に詠作の見えない人物の歌が数多く存し、その特異な構成ともあいまって注意すべき私撰集として位置付けられてきた。その研究は諸本論や題詠論を中心として展開されてきたが、伝本も多く系統が複雑で決定的な善本を認定できない。先学による諸本研究の成果は校本の完成に結実したが、いまだ多くの問題が残されたままである。その一つに「注記」の問題がある。『和歌一字抄』には人名及び出典について多数の注記が付されているが、これらが著者の手によるものであるか、後人の増補であるのか判然とせず、どのような目的で付されているのかも分かっていない。後に触れるように現在のところ後人説が有力であるが、清輔自筆の注記があった可能性も存するのではないかと考えられる。従来、注記に関する問題は、自筆か後人による増補かという問題に集中して論じられてきた。そこから得られた知見は少なくないが、この注記がどのような効果を期待して付されたのか、という観点からはほとんど論じられることがなかった。注記の効果や意図を考えることは、『和歌一字抄』がどのように読まれることを期待されて制作(あるいは書写)されてきたのかを考えることにも?がるだろう。本稿ではこうした観点から注記の問題を検証した上で、少なくとも出典注記に関しては清輔が自ら付した部分があったものと考えたい。特に原撰本系統で出典注記が付されている内閣文庫蔵本に清輔の手による部分が残存していると仮定し、それらの検討を通じて『和歌一字抄』のコンセプトがどのように形成され、どのように受容されてきたのかを明らかにする。二諸本の様相まず、諸本を確認する。現在の研究水準を示し増補本まで含めた校本である和歌一字抄研究会編『校本和歌一字抄』(風間書房、二〇〇四・二:以下『校本』)では、井上宗雄が提唱した三分類を踏襲している(1)。清輔の手による姿を比較的留め、後代の増補歌は無いとみられる原撰本系統、下巻のみながら、定家の歌が十首ほど増補されているだけとみられる中間本系統、上下巻にわたり裏書にあったと思しき鎌倉時代以降の歌が増補されている増補本系統の三系統の分類である。左にその分類と主要伝本とを示すが、増補本の二類から五類までは末流伝本のようであり、原撰本系統を重視する立場から今回は検討対象としない。原撰本系統(上巻のみ)Ⅰ《草稿本系統》1京都女子大学蔵谷山茂旧蔵本(〇九〇・Ta八八・九七)三康図書館蔵本(五・一二三九)上巻『和歌一字抄』の注記をめぐって──注記を付す意図──梅田径WASEDA RILAS JOURNAL NO. 3 (2015. 10)Abstract