ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

ページ
61/542

このページは RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌 の電子ブックに掲載されている61ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

マラルメとローデンバックの舞踊思想について-マラメルの書き換えに見られる二人の舞踊観の相違からいていたが、ロイ・フラー論においては両義的な役割をもたせている点が特徴的である。ここにおいて、ローデンバックがマラルメからヴェールのテーマを受け取り、議論を展開したことが刺激となり、マラルメがこのテーマを改めて捉えなおし、筆をとったことが何よりも重要な点である。7-2舞踊と律動の関係~踊り子の非人称性の問題もう一度マラルメが意図的に修正した箇所に立ち戻ろう。そこで主張されていたのは舞踊における律動(le rythme)の重要性ではなかっただろうか。マラルメの「qui le cache律動が身体を隠す」には、マラルメの舞踊思想がうかがえる。なぜならば、踊り子の踊る身体はステップを踏むことで自らが音楽となる、つまり身体が奏でる音楽となるからであり、そのとき身体そのものは、可視でありながらも不可視の存在となり、身体は音楽に隠れていなければならないからである。この点からすると、ローデンバックの「qui secache律動が自らを隠す」は、身体と律動がどのように関係しているのかが曖昧であり、ひたすら律動が隠されていることにのみ力点がおかれているといえる。むろん、ローデンバックも律動という言葉に以下でふれてはいるが、それほど深くは追求していない。舞踊とはまったき暗示である。かくして舞踊は、詩のなかでも至上のものである。造形的で色彩豊かで律動をもつ詩、そこでは、身体は一枚の白い紙にほかならず、詩は自ずと書かれてゆく。(38)ここに律動(le rythme)という言葉がみられるものの、ローデンバックは律動についてはこれ以上に語ることはなく、踊り子の視覚的効果、すなわち踊り子と衣装の関係に論点が集中する。一方、マラルメは律動という語を非常に注意深く使用する。とくに舞踊論において全般的にいえることであるが、律動と音楽とを意識的にわけて考え、音楽の語はことさら慎重に使用している。バレエは、目に見えるかたちでのポーズと様々な記号的特性の間で、その律動の各々、はじめは潜在的であり、あらゆる相関関係をもつもの、すなわち「音楽」を表すために、絡みつき同時に活き活きとさせる。それほど「舞踊」による世俗の小道具の具象的な表現は美的段階に相関する経験を含んでおり、ひとつの聖別式が我々の宝物の証しとしてそこで行われる。バレリーナの非人称性が、彼女の女性的外見と模倣している対象物との間で、いかなる婚姻のために置かれているのか、その哲学的な点を推論すべきである。(39)舞踊と律動の関係を、すぐさま舞踊における音楽のテーマと言い換えることができない点が重要であるが、これは別の問題に発展してゆく議論となるため、ここで展開することは控えたい。ただし、マラルメが舞踊を語るさい、あえて音楽と言わず律動とする理由としては、律動という語のほうが音楽の構成要素の相関関係がうみだす効果そのものを示すことができるからである、と言うことはできるだろう。踊る身体は、律動となり、文字となって舞台上で表現してゆくので、可視的でありながら虚構の性質をもつとマラルメは考えた。マラルメの舞台芸術論において、音楽のテーマが語られるのは、とくにワーグナー論においてであり、あるいは「典礼(Offices)」においても重要なテーマとなるが、舞踊論においては、バレエにおける音楽の役割について語られることはほとんどない。それだけに、舞踊と音楽が同時に語られている箇所は貴重であり、この関係性を明らかにすることが今後の課題となる。上記の引用において、律動と舞踊の延長上にバレリーナの非人称性のテーマが書き込まれている点は見逃してはならない。踊り子の身体は、律動にからむとき非人称性を獲得する。もしくは、踊り子の身体の非人称性が律動によって保証される、と言うこともできるかもしれない。すなわちマラルメの舞踊思想のなかでは、踊る身体と律動の関係が明確に位置づけられていることが証明されていることになる。このように、マラルメが「qui le cache」と書き換えたことには深い意味があったことを本稿は指摘した。8.結論ローデンバックがマラルメの舞踊論を読み、マラルメが、ローデンバックの舞踊記事を読むことによって、舞踊と律動の関係が掘り下げられたことが明らかとなった。この、ひとつの書き換えのなかに、踊り子とヴェールの関係、そして律動のテーマをめ59