ブックタイトルRILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

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概要

RILAS 早稲田大学総合人文科学研究センター研究誌

伝セネカ『オクタウィア』の独創性うとする.550の美のはかなさへの言及は『パエドラ』の合唱隊歌(773ff.)にも見られる.ネロの行動原理としての「愛」はこの場合「情欲」とほとんど同義であり,タキトゥスの描くネロの性格と共通している(46)「神を造った」とは,クラウディウスの死後の神格化を意味し,これについてはタキトゥス(Annales, 12.69)もスエトニウス(Claudius, 45)にも語られている.ネロが神格化されるクラウディウスに侮蔑的であったのは,小プリニウスの証言があり,セネカの戯作文『アオコロキュントシス』にも反映している.神を蔑むほどの傲慢さは,『オデュッセイア』のポリュペモス,『アエネイス』のメゼンティウスが思い起こされ,彼らの破滅もここでは知識として前提されていると思われるが,性格描写としてはやはり『テュエステス』のアトレウスが近いであろう(47)Octavia, 443(48)『オクタウィア』107行の「罪」(scelus)への訳注で,木村は後に着せられる「姦通」の可能性を示唆している.crimen omni exitio gravius「どんな死よりも深刻な罪科」と言うタキトゥスの措辞は,『オクタウィア』同行で木村が「罪の汚名」と訳した語crimenと共通しており,108行には「姦通罪」を直接には指していないがpoenagrauior nece「死よりも重い罰」という句も,タキトゥスの用語と似ている(49)Tacitus, Annales, 14.64(50)ネロがオクタウィア処刑に先立って排除した有力者プラウトゥス(ルベッリウス・プラウトゥス)とスッラ(ファウストゥス・コルネリウス・スッラ・フェリックス)の名が,作品中に言及されている(437-438).Whitman,84, Ferri, 252-253, Boyle, 184(51)Octavia, 222-251(52)権力者アッピウス・クラウディウスの情欲から,娘ウィルギニアの名誉を守るため,父親が娘を殺し,アッピウスはそれが原因で失脚する.Livius, 1. 57-60(53)第6代ローマ王セルウィウス・トゥリウスの娘トゥリアは,第7代の王となるタルクィニウス・スペルブスの妻となり,父の死に関して不孝の振る舞いがあったとされる(54)Tacitus, Annales, 15. 60-64(55)この部分が,合唱隊を2つに分ける根拠となっているが,木村訳も小林訳もその立場はとっていない(56)Octavia, 877-889.この合唱隊歌の結句「つましい家に満足して隠れて住む清貧こそよけれ,/高き館はしばしば暴風によって揺さぶられ,/あるいは運命の女神によって倒壊させられる」(896-898)はセネカ劇に常套的なテーマ(57)前注の「運命の女神」(木村訳)も「運の転変」を意味するfortunaの神格化で,セネカ劇に教訓を読み取るとすれば,「運の転変」に左右されない確固たる精神の確立ということであろうが,ここでは触れない(58)Octavia, 595-597(59)Ferri, 31-74,51