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韓国慶熙大学日本語科の日本研修

松本 真輔

研修を終えて

2010年1月11日から14日の四日間に渡り、早稲田大学重点領域研究において、韓国慶熙(キョンヒ)大学校外国語大学日本語科の学生を対象にした短期研修を実施していただきました。お忙しい中、仲介の労をとっていただいた竹本幹夫先生、研修をしていただいた竹本先生、兼築信行先生、中島国彦先生、およびお手伝いいただいた文学研究科博士課程の金小英さん、郭炯徳さん、趙允珠さんに厚くお礼申し上げます。

研修は、日本の古典から近代文学まで幅広い内容をカバーするもので、演劇博物館や中央図書館の見学・古典籍実習・現地踏査などを交えた非常に充実したものとなりました。早稲田大学の名は韓国でもよく知られており、学生達も研修前は講義についていけるのか少し心配していましたが、反応は非常によく、大いに刺激を受けたようです。

慶熙大学校日本語科の紹介

慶熙大学校は、1949年に培英大学学館と新興専門学校が合併して出来た新興初級大学を前身とし、1960年に現学校名に変更して今日に至っています。

現在はソウル市と龍仁市にキャンパスを持ち、二六の大学(College)を擁する総合大学(Unversity)です。

私ども外国語大学日本語科は、ソウル市の南に位置する龍仁市の国際キャンパスに所属しています。日本語学科は1981年より第一期生を迎え、今年で開設三〇周年となります。学生数は一学年およそ四〇人ほどで、学科としての規模は大きくないのですが、そのぶん学生間の関係も濃密で、学生主催の学科の行事が頻繁に行われています。

韓国の大学事情と日本研究

韓国の大学は、第二次世界大戦後が終了して日本の植民地支配から解放された後に発足したものが大半ですが、朝鮮戦争の影響もあって、本格的に学問の場としての大学が発展してくるのは、1960年代に入ってからです。そして、以後開校ラッシュが続き、現在では大学進学率が八割を超えるという状況になっています。

韓国における日本関連学科は、こうした中では比較的後発組になります。時系列で言うと、1961年に韓国外国語大学、1962年に国際大学(現西京大学校)で日本語学科が設けられていますが、それ以外の多くは1980年を前後して集中的に設置されたものです。慶熙大学校の日本語科もこの時期に設立されました。おおよそではありますが、現在は八〇ほどの大学に日本関連学科があります。これ以外にも、東洋系の学科で日本語コースが設置されているところもあり、わずか二~三〇年の間に、その数は大幅に増加しました。

進学者数や科目履修者数などの正確な数字はわかりませんが、学科数などから単純に考えると、およそ一学年で三千人程が日本関連学科に進学しているものと思われます。また、近年は「複数専攻(所定の単位を履修すると学位を認める)」制度によって日本語を選択する学生も増えています。

ちなみに、日本語を「専門」に学びに来るのは、やはり女性が多いのですが、その中で圧倒的に人気なのは、漫画でもアニメでも小説でもなく、実はアイドルタレント(ジャニーズ)です。このことはあまり日本では知られていないかもしれませんが、その影響力は絶大です。

ただし、外国語として見た場合、近年は英語第一主義が圧倒的な趨勢で、中国語がそれに続いています。日本語は根強い人気があるとは言え後退気味で、世界情勢が学生の語学選択にリアルに反映している気がします。

韓国での日本文学

ここ数年、韓国内では日本の小説が数多く翻訳されるようになりました。むろん、かつても翻訳は多かったのですが、点数が爆発的に増えています。しかも、日本の小説は比較的人気があります。小説部門のベストセラーには日本人作家の本が名を連ね、時には上位独占といったことも起こります。報道によれば、村上春樹『1Q84』が一億円(!)近い契約料で翻訳出版されたとも。また、2000年以後、古典の翻訳も次々に進み、主要な作品はかなり韓国語で読めるようになりました。出版社も点数を出すことで回っているという側面があるため、日本のランキング上位にある本は、片っ端から翻訳しているような状態です。日本も翻訳大国ですが、今や韓国はそれを上回る勢いです。

このように、韓国内では、日本文学に接するインフラがかなり整いつつあります。今回の研修が契機となって、学生達がよりいっそう日本文学に関心を持ってくれることを期待しています。

(慶熙大学校日本語科助教授)